2018年の西日本豪雨で被災した住民においてアレルギー性鼻炎が増加していたことが、広島大学大学院医系科学研究科の岩本博志准教授、服部登教授、松本正俊教授、広島大学病院総合内科の吉田秀平助教らの研究グループによる調査で明らかとなった。

 本研究では、厚生労働省の許可を得て、豪雨災害の大きな被害を受けた広島県・岡山県・愛媛県の3県における診療報酬明細書(レセプト)データ約618万人分の解析が行われ、このうち自治体から被災者と認定された約3万6,000人について、災害前後それぞれ1年間のアレルギー性鼻炎治療薬(点鼻薬)の処方数の変化が評価された。

 その結果、被災者に対する点鼻薬の処方は、被災後1年間にわたり非被災者より有意に増加し、特にスギ・ヒノキ花粉シーズン(2~4月)にその差が大きかったことが判明した。差分評価においても、被災後3カ月時点で有意な増加が見られ、その傾向は1年後も持続していた。

 また、被災者では年齢や性別に関わらず点鼻薬の処方割合が高く、さらに多変量解析の結果、災害の影響と花粉飛散量はそれぞれ独立して処方量と関連することが明らかになった。

 これまで自然災害とアレルギー性疾患の関連については指摘されていたが、豪雨災害とアレルギー性鼻炎との関係を大規模データで検証し、適切な対照群と比較した報告はなかった。

 研究グループは、地球温暖化に伴う自然災害の増加傾向を踏まえ、豪雨災害によるカビ曝露や汚染物質、心理的ストレスなどがアレルギー性疾患のリスク因子であることを認識した上で、診療や対策の重要性を提言している。特に花粉症シーズンには、被災の影響が花粉の影響に重なる可能性があり、被災者の長期的健康管理や複数の環境因子が重なる場合の病態把握にも有用な知見であるとされる。

論文情報:【World Allergy Organization Journal】Impact of 2018 Japan floods on allergic rhinitis prescriptions

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