長崎大学の八木光晴准教授らの研究グループは、長崎県五島市沖で建設中の浮体式洋上風力発電施設に集魚効果がある可能性を、環境DNA(eDNA)技術を用いて明らかにした。

 近年、再生可能エネルギーの主力電源化に向けて、特に浮体式洋上風力発電施設の大規模建設が進むと予想されている。しかし、こうした施設が海洋生物や漁業に与える影響の解明は十分ではない。中でも、魚類が洋上風車の周囲に集まる「蝟集(いしゅう)効果」の有無は、人間活動が海洋生態系に与える影響を理解する上で重要な手がかりとなる。

 研究グループは、2023年4月から12月にかけて五島市沖の風車近傍区4地点(+対照区4か所)でサンプリングを計5回実施。浮体式洋上風力発電施設に魚類が集まる傾向があるかどうかを、環境DNA技術を用いてマアジの環境DNA濃度を計測し、マアジの分布傾向を推定した。環境DNA技術とは、環境中の水から生物由来のDNAを検知し、生物の在不在や資源量の推定を行う技術。現地では水を採るだけで簡単に膨大なデータが得られる。

 その結果、風車周辺の海域ではマアジのDNA断片が多く検出され、同種が風車に蝟集している可能性が示された。これは、浮体式洋上風力発電施設が魚類の行動や分布に影響を与える可能性を示す重要な証拠の一つとなる。

 今回の研究は、このような新たな海洋構造物(海のランドマーク)が周辺の魚類群集の生態に及ぼす影響を示したものであり、再生可能エネルギーの導入と海洋環境保全との調和を考える上で、極めて重要な知見を提供するものとしている。

論文情報:【Aquatic Conservation: Marine and Fresh Water Ecosystems】Floating offshore wind farms attract Japanese horse mackerel

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