氷の表面はなぜ濡れるのか。北海道大学の研究グループは独自の光学顕微鏡を駆使し,長年の謎であった氷の表面融解のメカニズムを解明した。さまざまな結晶表面で生じる現象であるため、幅広い研究分野での応用が期待されるという。

 氷の表面が0℃以下でも薄い水の膜(擬似液体層)で覆われているという現象は表面融解として知られ、1850年代に電磁気学の祖であるマイケル=ファラデーが初めて取り上げた。その後、研究が重ねられたが水膜発生のメカニズムは不明のままであった。

 今回、オリンパス株式会社と共同で開発した原子・分子高さの段差を可視化できる光学顕微鏡を用いて観察した。その結果、平衡蒸気圧の状態に近づけると,擬似液体層は自発的に撥水(氷が擬似液体層を弾くこと)して、薄膜として氷を完全には濡らすことができず結露のような状態(液滴状)になった。その後、この氷・空気・水層が同時に存在する不安定な状態を解消するため擬似液体層は蒸発して、最終的に乾いた裸の氷表面が現れることが分かった。一方で,氷表面がある一定の氷の成長条件もしくは昇華条件を満たしたときのみ,擬似液体層が生成されることも突き止めた。この結果は,擬似液体層が水蒸気から氷へと相変化する過程(もしくはその逆)で過渡的に生み出される中間状態であることを示すという。

 表面融解自体は氷だけではなく金属,半導体を含む他の様々な物質の結晶表面でも起こる普遍的な現象と言われる。そのため、今回の研究成果は物性物理学から材料科学,地球環境科学など幅広い研究分野に大きなインパクトを与えることが期待される。

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