近年、文化財保存において、現代美術作品や近現代建造物の保存、収蔵庫不足の問題が活発に議論されている。東京藝術大学 芸術資源保存修復研究センターでは、こうした問題の解決を目標に、ケーススタディとして、同大学の教授で日本を代表する現代美術作家の日比野克彦氏のアトリエを保存するプロジェクトを発足。研究費をクラウドファンディングで募っている。
芸術資源保存修復研究センターは、2018年の「文化財保存修復センター準備室」開設より様々な取り組みを経て2021年2月に全学的な組織として設立された。現在、文化財の技法・材料に関する研究、文化財保存修復に関する技術開発、文化財アーカイブに関する研究、文化財保存修復家・保存科学者の育成の4つのプロジェクトを行っており、従来の芸術の枠には留まらない芸術作品の保存・修復にも積極的に挑戦している。
今回のプロジェクト「日比野克彦を保存する」は、マンション建て替えに伴い2021年8月に失われる日比野氏のアトリエを、まるごと保存する試み。2022年10月1日までに、玄関タイル・床材の保存処置、資料調査・基礎データベース作成、一部の資料のデジタル化完了を目指す。芸術作品の保存・修復における様々な課題を含むこのプロジェクトをクラウドファンディングという形で多くの人と共有することで、同センターが目指す芸術資源の保存の学術的・社会的意義や活動内容を広く知ってもらう機会とする。
プロジェクトの研究費は目標300万円をクラウドファンディングサイト「READYFOR」で集める。期間は2021年9月30日23時まで。リターンとして、日比野氏が使用していた物品や内装の一部などが提供されるアトリエ共有コースと、オンライン講座やワークショップ体験、文化財の科学調査入門キットなどが提供される保存修復コースを用意している。