首都大学東京の保坂哲朗特任准教授(都市環境科学研究科観光科学域・沼田真也研究室)らの研究グループは、幼少期の自然体験量が多い人ほど、不快や脅威の対象となり得る野生生物に対しても受容性が高いことを明らかにした。
生物多様性への関心が国際的に高まるなか、都市計画においてもその保全や回復は重要な課題だ。生物多様性は人々にさまざまな恵みをもたらすが、自然と接する機会が少ない都市住民にとっては必ずしも心地よいものではない。
同研究グループは2016年1月、首都圏在住の男女1,030人(20~69歳)を対象にアンケート調査を実施。問題を起こし得る野生生物としてスズメバチとイノシシを例に、深刻度の異なる被害シナリオを複数設定し、それに対して容認できる行政の介入度合いを尋ねた。合わせて、幼少期の自然体験量についても質問し、野生生物への受容性との相関関係を調べた。
その結果、被害の大小にかかわらず、公園や緑地に生息するスズメバチ・イノシシを行政が駆除しない状況について、70%以上の住民が「受け容れられない」と回答。これらの野生生物について、都市住民の受容性の低さと行政依存度の高さが明らかになった。
一方、深刻な被害のない状況では、幼少期の自然体験量が野生生物に対する受容性を増大させる要因であることがわかった。
同研究グループは、都市部で生物多様性促進のための施策を進める上では、野生生物がもたらす軋轢を潜在的なコストとして留意すべきと指摘。都市住民の幼少期における自然体験を回復させるとともに、嫌厭されがちな野生生物に関しても普及啓発を行い、住民の認識を変えていく取り組みが必要だとしている。