ヒトが1本ないし数本の指を屈曲させようと力を入れると、それ以外の指も意図せず(不随意的に)力が入ってしまうような現象が生じる。このような現象は“enslaving effect”と呼ばれ、このメカニズムとして筋や腱、軟部組織によるバイオメカニクス的要因と大脳や脊髄における神経学的要因の2つの関与が考えられている。
中でも神経学的要因について、様々なニューロイメージング技術を用いることで、随意運動を司る一次運動野における手や足など各身体部位の運動に関わる領域は、領域同士でオーバーラップしているという事が明らかにされてきた。しかし、最終的に筋の収縮に関わる脊髄運動神経におけるenslaving effectの神経学的メカニズムは一定の見解が得られず未解明であった。
運動イメージは筋収縮や運動を伴わずに脳内で運動をシミュレートする心的過程であり、運動イメージと実運動は多くの共通した神経基盤をもつとされている。
関西医療大学大学院の文野住文講師と鈴木俊明教授は、運動イメージと脊髄運動神経の興奮性をテーマに研究を行っており、先行研究で得た経験から運動イメージの特性を応用し、母指の運動をイメージした際の小指の筋に対応する脊髄運動神経の興奮性変化を検討することで、enslaving effectの脊髄レベルにおける神経学的メカニズムを解明しようと試みた。
結果、対象者には小指の運動に関する指示を与えていないにも関わらず、母指の運動イメージ時に小指の筋に対応する脊髄運動神経の興奮性が増加したことから、enslaving effectの神経学的メカニズムにおける脊髄レベルの関与が示唆された。さらに本研究と先行研究から、運動イメージと随意運動は脳や脊髄レベルにおいて多くの神経基盤を共有していることが明らかとなった。
本研究で得られた結果は、将来、ヒトの運動制御に関わる神経生理学的メカニズムをより詳細に検討していくための重要な知見になると考えられる。