国立遺伝学研究所と長崎大学の共同研究グループは、細胞核の強さが核の殻の構造だけでなくDNA自体によっても生み出されていることを明らかにした。これまで遺伝情報のメモリデバイスとみなされてきたDNAに、核の弾性を支えるバネという役割を新たに提唱した。
人間の体を構成する細胞は、自重を支えながら自ら力を生み出したり外からさまざまな力を受けたりしながら細胞の機能を果たしている。これらの力はDNAの収納場所である細胞核にも伝わり、核をゆがめ、DNAの機能を阻害すると考えられている。しかし、核の硬さや弾性などの性質を直接測ることは難しかったため、細胞核に伝わる力に対する応答のメカニズムはほとんどわかっていなかった。
研究グループは、直径1μmほどの細いガラス針を使ってヒト細胞の核を直接触り、力を掛けたときの核のゆがみを観察することで、核の強さを計測した。結果、核は力に対抗するための硬さと弾性を合わせ持っていることがわかった。さらに、凝縮している通常のDNAと、伸ばした状態のDNAおよび切れた状態のDNAから構成される核を計測し、比較することにより、DNA自体からも弾性力が生み出されていることを明らかにした。
この成果は、DNAが核のバネとして働くことで核の硬さを制御するという、DNAの新たな役割を提唱するものだという。また、細胞死やがん化などの異常に関わるとされる核に生じるゆがみや構造の破壊の理解が進み、このような細胞の異常が起こるしくみの解明につながるとしている。
論文情報:【Molecular Biology of the Cell】Nucleosome−nucleosome interactions via histone tails and linker DNA regulate nuclear rigidity