九州大学大学院言語文化研究院の中里見敬教授らの研究グループは、九州大学附属図書館「濱文庫」に所蔵される『春水』手稿本(原稿)について、現代中国の著名作家・冰心(ひょうしん)の自筆原稿であることを明らかにした。執筆から95年後の発見となった。
日本では「謝冰心」とも呼ばれる「冰心」(1900-1999)は、燕京大学在学中に、詩集『繁星』(1922)、『春水』(1923)などを発表し、彼女の著書は、小・中学校の国語教科書に採用されるなど、中国では国民的作家として知られている。
今回発見された自筆原稿は、冰心22才のときに書かれたもので、現存する冰心手稿の中で最も早い時期の完全原稿として、中国現代文学の第一級の原資料といえる。
この貴重な原稿が保管されていた「濱文庫」は、故 濱一衛(はま・かずえ)九州大学名誉教授が蒐集した中国演劇関係の和漢書939点(約2500冊)を所蔵するコレクションで、発見に至る経緯は、2016年に公開された、魯迅の実弟で北京大学教授の周作人の1939年の日記に、“『春水』手稿本を濱一衛九大名誉教授に贈る”と旨記されていたことから、濱文庫に所蔵される『春水』手稿本の由来が判明した。
また、『春水』出版時に周作人が編集を担当していたことから、この原稿が冰心による自筆原稿であることが確実になった。
この研究成果は、2017年6月20日に北京の中国現代文学館が発行する学術誌『中国現代文学研究叢刊』に掲載された。