筑波大学の研究チームが、テニスなどによる手首のスポーツ障害を早期診断できる車載型MRIシステムを開発した。
スポーツ障害の潜在的リスクを抱える成長期のジュニアアスリートにとって、けがの早期発見と治療は極めて重要性を持つ。スポーツ障害において多くの割合を占める手首のけがの一つには、三角繊維軟骨複合体(triangular fibrocartilage complex, TFCC)の損傷が挙げられる。重度のTFCC損傷では手術が必要となり、競技復帰が困難となるほか、日常生活にも支障をきたす場合がある。
一方で、スポーツ障害の検出にはMRI(磁気共鳴画像)が有用だが、病院などに設置された一般的な全身用MRI装置は、緊急性の高い患者に利用されることが主であり、スポーツ障害の早期発見を目的とした検査には現実的に用いられない。
そこで本チームでは、2019年に普通乗用車に小型のMRIスキャナーを搭載した車載型MRIシステムを開発した。このシステムは、肘の障害(野球肘)用に製作され、主にジュニア野球選手を対象として病院外でのMRI検査を可能とした。しかし、同じシステムで手首の画像を取得するには感度が低く、十分な画質が得られないことから、今回、上述した手首のスポーツ障害に特化したシステムを新たに開発したという。
手首用MRIシステムでは、核磁気共鳴信号の送受信を行うRFプローブの径を手首に合わせて小さくし、屋外環境の外来ノイズを低減するための置き型シールドを備えた。さらに、駆動源として従来の商用電源に代えてポータブル発電機でも動作できるようにしたことで、より幅広い環境に出向いて検査ができるようになった。
実際に、テニススクールに出向いて34人のジュニアテニス選手の手首のMRI検査を行ったところ、診断に十分な画質のMRI画像を取得でき、うち9人の選手のTFCC損傷を発見したという。これらには無症候性も含まれたことから、本システムを用いたポータブルMRI検査がジュニアアスリートにおけるスポーツ障害の早期発見と治療に有効であることを確認したものである。本チームは今後、足首や踵などさらに他の部位への適用も目指すとしている。