東京大学の小林廉毅教授は、秋田大学、埼玉医科大学と共同で、全国の帝王切開術実施状況について初めて明らかにした。それによると、全国の帝王切開率(2013年)は18.5%で先進国の中では適切なレベル。しかし、予定を決めて実施する「予定帝王切開率」は医師数や施設、周産期医療体制が不十分な地域ほど高くなる傾向があった。
帝王切開率は世界的に増加傾向にある。世界保健機関(WHO)の推奨値は10~15%だが、経済協力開発機構(OECD)加盟国の平均は28%だ。高年出産や多胎妊娠の増加、また訴訟リスクの回避、予定の立てやすさなどの理由が背景にある。手術や麻酔に伴う危険や次回の妊娠・出産への影響などの理由から、不必要な帝王切開を減らす取組みが各国で行われている。
日本では年間を通じた全国統計がなく、詳細な分析が行われていない。そこで今回、研究用に整備した全保険者のレセプトや特定健診のデータの分析により、2013年の全国の帝王切開術実施状況を調査。その結果、出生数102万9,816人のうち帝王切開術を含むレセプト件数は19万361件で、全国の帝王切開率は18.5%であった。先進国の中では低く、日本の周産期医療水準の高さが改めて確認されたものという。
一方、都道府県別の母親の年齢で調整した帝王切開率は、14.4%から26.4%。予定帝王切開率は分娩担当医師数が少ない県、新生児集中治療室(NICU)の病床数が少ない県、診療所での出生の割合が多い県で高くなる傾向があった。背景に地域の周産期医療体制の違いのある可能性が示唆される。ただし、母体や胎児の状態悪化による緊急帝王切開率に地域差はみられなかった。
今回の研究は、地域周産期医療の向上に向けた議論の貴重な資料として期待される。