大阪公立大学の研究グループは、手の動きを拘束すると、手で動かせる物の意味を処理する脳活動と言語化の速度が低下することを明らかにした。このことは、手の動きが、物の意味の処理に影響を与えることを示している。
認知心理学・認知科学において、人間にとって言葉の意味は身体と環境との相互作用を通して表されるという「身体化認知」の考え方がある。身体化認知は、人工知能が言葉の意味を学習する際にも有効な可能性があるとして、人工知能研究でも注目される考え方である。
しかし、身体の動きが制限された際に、言葉の意味を処理する脳活動が実際に変化するのか、また言葉の意味の処理は阻害されるのか、といったことについては検証されていなかった。そこで本研究では、“手で動かせる物を表す言葉”に対し、手の動きを拘束することによって脳がどのような反応を示すかを実験的に調べた。
実験には、2つの単語を提示してどちらが大きいかを答えてもらう課題を用いた。結果、「手で操作可能な物を表す単語」(例:「カップ」と「ほうき」)を提示された場合に、道具などに関する意味処理を司るとされる左脳の頭頂間溝と下頭頂小葉の活動に、手の拘束による有意差を認めた。一方、「手で操作できない物を表す単語」(例:「ビル」と「街灯」)の場合は、手の拘束による有意な影響は確認できなかった。
また、手で操作可能な物を表す単語の場合のみ、課題に対する口頭反応の速さも有意な影響を受けることがわかった。すなわちこれは、手の拘束によって、手で操作可能な物の意味に関する処理が阻害されたことを示唆する。
以上の結果は、言葉の意味を処理することと体の動きが強く結びついているという身体化認知の考え方を裏付けるものである。言葉の意味を処理する時に脳内で体の動きを含めて記憶している可能性があることから、物の意味を学ぶ上で身の回りの物に触れ、手で操作することは重要だといえよう。