淑徳大学では毎年、ベトナム人の介護福祉士候補者との交流会を開催しています。2017年は、7月18日に特別養護老人ホーム共生苑(千葉県千葉市)にて、総合福祉学部社会福祉学科の3、4年生171人と、20代のベトナム人介護福祉士候補者181人が参加。館内を見学したあと、グループに分かれて意見交換を行いました。
日本はインドネシア、フィリピン、ベトナムの3国と経済連携協定(EPA)を締結し、看護師と介護福祉士候補者の受け入れを2008年度から順次、進めています。ベトナム人介護士候補者らは、日本・ベトナム経済連携協定に基づく外務省の人材交流として来日します。本国で看護の専門教育を受けるとともに、日本語を1年間勉強して日常会話レベルの日本語検定を取得後、日本の各施設にて研修を行い、3年後の介護福祉士国家試験の合格を目指します。2017年1月の出入国管理法改正で在留資格に介護福祉士が追加されたのに加え、11月の技能実習法施行で介護の外国人技能実習制度もスタート、これからの日本にとってベトナム人介護福祉士への期待は高まるばかりです。
これからの社会福祉士に求められている経験
淑徳大学のベトナム人介護福祉士候補者との交流は、総合福祉学部の藤野達也教授ら教員がベトナムで出張授業をするなどの支援活動を機に2014年から続いています。
「日本の福祉施設では、少子高齢化が進むことで、今後、外国人の方とも一緒に働き、マネジメントもしていかなければならなくなります。福祉について科学的に自立支援を考えいくことができると同時に、現場を理解した上でのマネジメント能力がこれからの社会福祉士には求められているのです。そのためには、知識だけではなく様々な経験が必要です。今回の交流会も、難しいことを話し合うあったわけではなく、自己紹介や普段の生活など、それぞれに思っていることをざっくばらんに話しただけですが、日本の学生にとって、ベトナムの方が来日して福祉の仕事に就く背景を理解することはそうたやすいことではありません。ベトナムと日本、お互いの生活や文化、人となりを知り、理解を深めることで、これから共に福祉の仕事をしていくにあたってより良い関係が築いていけるのだと思っています。言語的な意思疎通がもしうまくいかなくても、お互いを理解しようとする姿勢や非言語のコミュニケーションは、福祉の分野では必要なスキルですから、積極的に交流することでわかりあえるところは多いはずです。早い段階からこのような交流を持つことは、学生にとってもよい経験となりますし、ベトナムの方にとっても日本を理解し早く慣れてもらうよい機会だと思います。」と、藤野教授から交流会を開催している目的についてお話しいただきました。
本当の「福祉」を理解し、グローバルな視点で考える
福祉の世界でも、グローバル化は避けて通ることはもはやできません。そして、少子高齢者化社会に関する日本の問題は、決して現在の日本一国の問題ではなく将来のアジアの問題にもつながっています。今、多くの人口を抱える国々にとっては、日本の問題解決はその先例となり得るものです。実際にアジア諸国に向け、日本の施設や介護技術も輸出されつつあります。外国人の方にとって日本で技術を身に着けることは、日本で生活基盤を築いたり、母国へ帰りそのスキルで仕事の可能性が広がるなど、豊かな生活を送るためのきっかけになることでもあります。
福祉=介護と捉えられがちですが、「福祉」とは人びとが「幸福であること」、「社会福祉」とは社会的な手段や方法による「福祉」の実現のことをいいます。高齢者にかぎらず、子どもから大人まですべての人にとって、福祉の充実したグローバルな循環型の社会をつくることは、高齢者だけではなく若者にとっても安心して暮らせる明るい未来をつくるためなのです。
淑徳大学は、ひとりひとりの自立を支えるような理想社会を実現するための人材育成を目指し、社会福祉への関心が社会的にまだ高まっていなかった1965年に、社会福祉学部社会福祉学科の単学部単学科の大学として開学しました。同学が建学の理念に掲げている「共生」にあるように「for him(彼のために)ではなく、together with him(彼と共に)でなければならない」は、まさに現在の世界に通じるものではないでしょうか。
各国が福祉政策を積極的に進めていく中、単に日本の介護問題の解決策としてだけでなく、来日する外国人介護福祉士双方にとって有益なものにしていかなければ意味がありません。グローバルな視点の基本は、「相手のことを知ること」。どんなに規模が大きくなろうとも、最終的には人間が動かすことだからこそ、同大学の取り組むこうした基本的な理解を大切にした教育がより重要になっています。