我が国において大腸がんは、女性では死亡率第1位、男性でも第3位を占め、その死亡者数は30年間で約3倍に増加している。大腸がんの大半は、複数の遺伝子に変異が生じて発症することがわかっており、中でも「ゲノムの守護神」と呼ばれるがん抑制遺伝子p53は、代表的な原因遺伝子として知られる。
今回、京都大学らの研究グループは、ナルディライジンというタンパク質を抑制することでp53の機能が活性化され、大腸がんの発症・進展が抑制されることを明らかにした。ナルディライジンは、体温調節やインスリン分泌など様々な生命現象を制御しており、胃がんや肝細胞がんにおいても重要な役割を果たすことが示されていたが、どのようなメカニズムでがんの進展に関わっているかはこれまで不明だった。
本研究では、大腸がんモデルマウスを用いて、ナルディライジンを抑制した場合と増加させた場合を検討。結果、腸管上皮のナルディライジンを抑制すると大腸がん進展が抑制され、逆にナルディライジンを増やすと大腸がん進展が促進されることがわかった。さらに、マウスの腸管ポリープを調べたところ、ナルディライジンの増加に伴いp53の発現が低下していることが判明。p53は、細胞のがん化の原因となるDNA損傷を修復する機能や、がん化した細胞の細胞死を誘導する機能を持つ「ゲノムの守護神」。大腸がん細胞を用いた検討では、ナルディライジンの発現を抑制するとp53の発現が安定化することがわかり、結果として大腸がんの発症・進展が抑制されることが示唆された。
ナルディライジンがp53の調節因子であることを初めて明らかにした本成果を基盤に、ナルディライジンを標的とした新たな治療法の開発が期待されている。