東京農工大学の髙田隼人特任准教授(当時、山梨県富士山科学研究所)は山梨県の富士山高山帯に生息するニホンカモシカの空間行動を調査し、森林に生息するカモシカと大きく異なる空間行動を持つことを世界で初めて明らかにした。
ニホンカモシカは日本の落葉広葉樹林帯を主な生息地とする典型的な森林性の有蹄類。行動圏サイズは十から数十ヘクタールと小さく、季節移動のない定住性で、森林環境に適応的な空間行動を持つ。一方、一部のカモシカは富士山のような開放的な高山帯にも生息するが、その空間行動は調査されていない。
そこで、2017年から2018年に、山梨県の富士山麓に生息する成獣のカモシカ2頭(オス1頭、メス1頭)を捕獲してGPS発信器を装着。位置情報からその空間行動を調査し、森林に生息するカモシカとの違いを検討した。
その結果、富士山高山帯のカモシカの行動圏は森林に生息するものより最大30倍も大きい300ヘクタール前後だった。また、行動圏サイズとその分布は大きく季節変化し、春から夏は小型の植物が育つ森林限界から高山帯の広い範囲を利用し、冬は常緑針葉樹林内の極小さい範囲を利用した。さらに生息地選択も大きく季節変化し、春から夏は高標高の森林限界付近を選択し、冬は低標高の常緑針葉樹林を選択した。これは高山帯の限られた食物条件と気候の季節変化に適応したものと考えられた。
今回、高山帯に生息するカモシカが生活していくためには広大な土地と季節に応じて多様な生息環境が必要と判明。今後このような観点から生息地を保全していく必要性を指摘する。今後、カモシカの未知なる生態の解明と同時に保全に有用な情報を蓄積していく必要があるとしている。