東京工業大学の研究チームは、植物が夜間に光合成に関わる酵素をオフにするしくみを解明した。
植物体内では、朝になり光が強くなるのに応じて、光合成に関わる複数の酵素が還元(スイッチオン)される。一方で、夕暮れになり光が弱くなると、これらの酵素が酸化(スイッチオフ)される。このように酵素活性を調節する機構を「レドックス制御」と呼び、酵素タンパク質が持つジスルフィド結合の形成・開裂(酸化・還元)を生体内の酸化還元状態に応じて制御している。
スイッチオンの状態にする時は、チオレドキシンという酸化還元タンパク質が、標的となる酵素のジスルフィド結合を還元して開裂させることで、その酵素を不活性型から活性型にする。このオン側のしくみは古くから知られていたが、オフにする分子機構は明らかにされていなかった。
研究チームは、チオレドキシンに類似したアミノ酸配列を持つ、機能が分かっていないタンパク質“thioredoxin-like2”(TrxL2)に着目した。TrxL2の性質を調べると、チオレドキシンよりも酸化還元電位が著しく高く、チオレドキシンとは逆方向に還元力の受け渡しを行う、酸化因子タンパク質であることがわかった。さらに、光合成の酵素を酸化し続けるために、細胞にとって有害な活性酸素の消去に還元力を使う2-Cys Prxに還元力を渡していることもわかった。すなわち、活性酸素が持つ強い酸化力を利用することで、持続的なタンパク質の酸化を行っているのだという。
本成果により、植物が光合成を行えない夜間に光合成の糖代謝に関わる酵素群を眠らせ、エネルギー浪費を防ぐしくみの一端が解明された。今後、環境適応型作物のデザインなどの応用展開にも重要な指針となると期待される。