京都大学の学部生による研究チームiGEM Kyotoのメンバー、Alexander Y. Liu氏、古賀大翔氏、合屋智尋氏の3名は、DNAクローニングのための新しい反応液を開発した。2つの酵素を混ぜるだけで、コストは高価な試薬の数千分の一。性能も市販品と同等だった。
DNAクローニングは分子生物学の基幹技術で、DNAを切る「はさみ」や「のり」を使った複雑な工程が必要だった。最近「相同組換え」を利用したシンプルな方法が使われるようになったが、高価な試薬が必要なため多くの研究室の予算を圧迫している。
研究チームは、予算が少ないため高価な試薬を買うことをためらい、「自分たちで新たな反応液を作れないか」と考えて研究を開始。高価な試薬を使わずとも、大腸菌から特別な方法で抽出した溶液「SLiCE」を使えば「相同組換え」ができるという報告に着目し、北畠真助教と共同で「SLiCE」の有効成分の特定に挑戦した。
研究の結果、2つの酵素(エキソヌクレアーゼIII(ExoIII)とエキソヌクレアーゼT(ExoT))が活性を担っていることが判明。2つの酵素を混ぜるだけで、無数のタンパク質が溶け込んだSLiCEの活性を完全再現することに成功。主な活性を担うExoIIIは市販のものを購入したが、希釈して使用するため、一万円の試薬を買うと80万回もの組換え反応が行える(市販キットは1回反応あたり1,500円程度)。高価なキットに匹敵するカクテル(混合物)を、非常に廉価に作ることが可能になった。
作成したカクテルは、非常に安定した条件で保存することができ、長期間保存しても活性は低下しなかった。今回の成果は世界中で行われるDNAクローニングのコストを大幅に削減させることにつながることが期待されるとしている。