近年、Evidence-Based Medicine(EBM)を実践する上で、患者の価値観を考慮し医療者と患者が共同で治療の意思決定を進めるShared Decision-Making(SDM)が推奨されている。SDMは理学療法領域でも注目されているが、これまで、理学療法領域におけるSDMの有用性に関する理論的根拠が不足していた。
そこで、畿央大学大学院博士後期課程の尾川達也さん(西大和リハビリテーション病院)と森岡周教授らは、日本の入院環境や地域で理学療法を受けている患者277名を対象に、意思決定への関与の状況とその要因について調査を行った。調査では、実際の意思決定方法とともに、患者が希望する意思決定方法についても同時に検証し、この一致度を算出することで、患者の希望が満たされているかどうかも評価した。
その結果、実際の意思決定方法と希望する意思決定方法が一致していた割合は49.8%にとどまり、意思決定に関わる患者の希望が満たされていない実態が明らかとなった。希望よりも実際が能動的な関与であった患者の割合は13.7%と少数で、希望よりも実際が受動的な関与であった患者の割合が36.5%もいた。つまり、治療の決定を「理学療法士が行っている」と認識している患者の割合が多いことが考えられる。
一方、意思決定への患者関与に関連した要因としては、「治療環境が地域である」、「患者が意思決定への関与を希望する」、「理学療法士がSDMを実施する」が選択されたことから、理学療法領域においても、SDMの実施程度が患者の意思決定への関与の一要因になることが明らかとなった。
以上から、日本の理学療法領域においても、患者が希望するように意思決定に関われていないという“患者関与の問題点”が示されたとともに、意思決定場面におけるSDMの有用性を支持する発見が得られた。本研究成果は、SDMの臨床実践を推進していく理論的根拠となると考えられる。