京都大学の明和政子教授らの研究グループは、育児中の母親と出産・育児経験のない女性を対象にした研究の結果、母親は養育経験を蓄積すると他者の表情の知覚が敏感になり、その感情推定がより正確になること、また、不安傾向が高い母親ほど乳児や成人の表情の知覚がさらに敏感になることを初めて明らかにした。
これまでの研究により、養育経験の積み重ねにより、乳児のふるまいに対する養育者の行動や脳の反応が変化することは知られていた。しかし、その前提となる「相手の表情を敏感に知覚し、そこから正確に感情を推定する能力」との関連については不明だった。
そこで研究グループは、初産で生後7~12ヶ月児を育児中の母親と、出産・育児経験のない同年代の成人女性を対象に、乳児および成人の表情から感情を知覚し、読み取る能力にどの程度の個人差がみられるかを検証した。その結果、育児経験者(母親)は成人の表情から感情をより正確に読み取っており、さらに、母親の表情知覚の敏感性には一定の個人差が認められ、不安傾向が高い母親ほど相手の表情(乳児の悲しい表情・大人の嬉しい表情)をより敏感に知覚していることが分かった。
今後は、表情知覚の敏感性や正確性の個人差が、日常の養育行動にどのように反映されているのか、オキシトシンなどの神経内分泌ホルモンや生理的ストレスとどのように関連するのかの検証が課題という。こうした問題の科学的解明は、現代社会が喫緊に取り組むべき課題である産後うつや育児ストレスの本質的な理解と、その解決に向けた具体的な議論につながるとしている。