京都大学、九州工業大学、静岡大学の研究グループは、生物の「複雑適応システム」が進化する際、システムを補助する性質がシステムそのものに先立って生じるという、一見矛盾した新たな規則を発見した。
生物の進化では、時間とともに複雑さ(生物システムの構成要素数や要素間の関係性の多さ)が増していくという特徴がある。複雑さの増大は多くの場合、その生物システムの環境適応性と関連しており、これを「複雑適応システム」と呼ぶ。
複雑適応システムの典型例として、アリやミツバチに代表される社会性昆虫のコロニーがある。研究グループは、アリで見られる「道しるべフェロモンによる情報共有を介した集団採餌」を模した群ロボットを使って、どのように複雑適応システムが実現されているかの検証を試みた。
群ロボットは、道しるべフェロモンに対する反応システムだけではフェロモン上に集中し、渋滞や衝突が発生してしまう。そこで、採餌をうまく行うには「交通規則」(往路個体よりも復路個体を優先する)という調節メカニズムが必要となる。
このような根幹システム(道しるべフェロモン利用)と調節システム(交通規則)というシステムの階層性が、複雑適応システムの進化に関わっていると考えた研究グループは、群ロボットを生物のように適応進化させるシミュレーションを実施。すると、根幹システムよりも調節システムの進化が先立つという意外な機序がわかった。すなわち、まず調節システムだけを持つ群ロボットが進化し、その群ロボットの中から、根幹システムをあわせ持つことで複雑適応システムを実現する群ロボットが現れるのだという。
本成果は、生物システムが共通して示す「適応的な複雑さの進化」がどのように生じたのかについて、新規な理論枠組を提示するものといえる。