東京都立大学大学院のTety Maryenti氏(現・インドネシア大学助教)らは、鳥取大学、国立遺伝学研究所の研究員らと、先行研究で作出したコムギとイネの交雑植物(イネコムギ)(2021年10月発表)のゲノム解析を行い、イネコムギがイネのミトコンドリアをもつ細胞質雑種コムギであることを明らかにした。
コムギ、イネ、トウモロコシは世界の穀物生産の約9割を占める。全てイネ科植物だが、異なる亜科に属しているため交配による交雑が非常に困難で、各々の優れた遺伝資源を相互に利用できなかった。
今回の研究では、コムギとイネの花から単離した配偶子(卵細胞と精細胞)を任意の組み合わせで顕微授精法により融合させ、イネとコムギの交雑植物イネコムギ(Oryzawheat)を作出し、それらのゲノムの配列と組成を決定した。
その結果、イネコムギは核ゲノムとしてコムギゲノムを、ミトコンドリアゲノムとしてコムギゲノムに加えてイネゲノムを持つ細胞質雑種コムギ(Cybridコムギ)と判明した。また、ゲノム解析した1個体では、イネの核ゲノムがコムギの核ゲノムの中に一部残ったイネコムギも確認できた。しかし、このイネコムギが同一個体に異なる遺伝情報を持つ細胞が混在する「キメラ」であったため、次世代へのイネゲノムの伝達は確認できなかった。
ミトコンドリアは乾燥、低温、病原菌感染などの環境変化、ストレスを察知するセンサーとして機能しており、イネコムギはコムギにはない新奇形質を獲得している可能性が高いため、現在その形質評価が進められている。今回、世界で初めてコムギにイネの遺伝子資源を導入できた。顕微授精法による交雑植物の作出手法は新たな育種技術として期待されるとしている。