2024年10月1日から、「児童手当」が拡充され、高校生へ毎月1万円が給付されることになりました。第三子以降は毎月3万円で、年収制限はありません。今まで高校生に対しては、ゼロだったわけなので、高校生1人あたり3年間で計算すると36万円の給付が増えることになります。2025年度から「扶養控除額の変更」が予定されており、手取りが減少する分もありますし、2026年度から「子育て支援金」の徴収もはじまりますが、トータルで考えれば、もらえる金額が増えることは確実です。

また、年収制限や都道府県によって追加支援額が異なりますが、「高等学校等就学支援金」も継続されており、高校の授業料等が支援されています。

さらに、2024年度では年収制限が付いていた、高等教育の修学支援新制度による「多子世帯の授業料等の減免」は、2025年度から年収制限がなくなります。子どもを3人以上扶養している間のみ減免となりますが、少なくとも第1子は年収に関係なく確実に授業料等が減免されますので、家計にプラスになるのは確実です。

この3つの国の支援によって、高校生の進学先選びは変化していくのでしょうか。大学選びという視点で、どのような影響があるかを考えてみました。

 

2024年10月から「児童手当」の拡充で、高校生にも月1万円、第3子以降は月3万円が給付される

 「児童手当」は1972年に創設された制度で、月額3000円を給付(第3子のみ対象:5歳まで)からスタートし、受給対象が拡大すると年収制限が設けられたりして、年によって給付条件が変化してきました。直近の2024年度までは、中学生までの子供に、年収960万未満は条件により1人あたり月1万~1万5000円、年収960万以上の場合は特例として1人あたり月5000円が給付され、年収1200万以上の場合は、給付なしでした。

 これが、2024年10月1日からは、年収制限が撤廃されるとともに、高校生も給付の対象に加わりました。第3子の給付額が増え、さらに第3子以降の計算方法も緩和されたため、今までよりも多くもらえる家庭が増えることになります。ただし、2025年度から扶養控除(16歳以上対象)が所得税で38万円から25万円に、住民税は33万円から12万円に縮小される見込みとなっていますので、手取りが減少する分もあります。児童手当で給付されるお金と、税金による手取り減をトータルで考えても、家計にはプラスになっているので、うれしい限りです。

 このお金を貯めるという考え方にはならないかもしれませんが、大学の入学金や検定料などには活用できるのではないかと考えられます。

※ここでの年収は、主たる生計者の年収となっており、両親のうち高い方の年収を指しています。

「高等学校等就学支援金」で、高校の授業料の支援もあり。東京都や大阪府は年収制限なしで、私立高校でも実質授業料無償に。

 高校無償化と言われる支援は、「公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律」として2010年からスタートしました。当初は公立高等学校について授業料を無償とするとともに、私立高等学校等の生徒については、高等学校等就学支援金を支給する制度が創設。そのあと、2014年、2020年と制度が変更され、現在の制度になっていますが、都道府県による追加支援が毎年変更されているため、住んでいる都道府県や入学年度により支援額が異なるという事態が起きています。

 東京都は、2024年度から年収制限を撤廃していますので、私立高校であっても授業料平均額である46万4000円が全員に支援があります。大阪府も、年収制限が2024年度の高校3年生から段階的に適用し、2026年度には完全に撤廃され、私立高校であっても授業料平均額である63万円が全員に支援されます。東京都と大阪府以外は、支給条件として年収制限がありますが、ここでの年収は、両親のうち一方が働いているのか、共働きなのかによって条件が異なるため、注意が必要です。

「多子世帯の授業料等の減免」の年収制限撤廃。私立大学では入学金最大26万円、授業料(年間)最大70万円が減免される

 高等教育の修学支援新制度は、意欲ある子供たちの進学を支援するため、授業料・入学金の免除または減額と、返還を要しない給付型奨学金により、大学、短期大学、高等専門学校、専門学校を無償化する制度として2020年からスタートしました。当初は、年収により第Ⅰ~第Ⅲ区分に分けられ、区分により減免額や奨学金の額が決められていました。

 2024年度からは、第Ⅳ区分(年収目安380万~600万)が新たに設定され、多子世帯について第Ⅰ区分の1/4の減免と奨学金が、私立学校の理工農系進学について文系の授業料との差額が支援されることになり、2025年度からは、多子世帯の年収制限が撤廃されることになりました。

※修学支援新制度における年収は、生計維持者の合計額となっているため、共働きの場合は年収を合算する必要がある。多子世帯の場合は、2025年度から年収制限は撤廃される。

多子世帯の年収制限撤廃により、2025年度入試における大学受験者で、あらたに減免対象者になったり減免額が増える人は、全体の5%程度か

 国立社会保障・人口問題研究所が行っている「出生動向基本調査」によると、45~49歳夫婦の子どもの数が3人以上の割合は、2021年で17.9%となっています。子どもゼロが9.9%いますので、子ども1人以上の家庭だけで考えると約20%となります。この約20%のうち、第1子は確実に減免対象者となり、第2子や第3子以降も減免対象者となる可能性がありますので、約半分と仮定すれば、学年の約10%が多子世帯の対象となると予測できます。

 もともと第Ⅰ区分(年収目安270万未満)で今回の拡充がなくても減免が受けられる生徒がいることを考慮し、大学進学率を60%弱と考えると、2025年度入試の大学受験者で新たな減免対象者や減免額が増えるのは、5%程度ではないかと考えられます。

4年間授業料が減免されるのであれば、私立大学に進学しようと考えるのでは?

 今まで、お金の問題で、高校卒業後に就職しようと考えていた生徒は、大学進学を考えることができるようになります。お金の問題で、短大や専門学校で2年間の学びしかできないと考えていた生徒は、大学進学を考えることができるようになります。お金の問題で、国公立大学しか進学できないと考えていた生徒は、私立大学も視野に入れることができます。お金の問題で、自宅から通える範囲の大学しか進学できないと考えていた生徒は、自宅外から通学する大学も視野に入れることができます。

 このように考えていくと、多子世帯の減免で年収制限が撤廃される効果は、対象者が5%程度であったとしても、私立大学にとっては、かなり大きいです。2年間授業料が減免されるよりも4年間授業料が減免される方が、得だと考える人が多いでしょうし、特に文系の学部の学費であれば、追加で支払う費用はかなり抑えられることになりますので、現実として進学することが可能になる人が多いと考えられます。

学部の4年間、医学部などは6年間減免が続く前提だが、留年や授業出席率で支援打ち切りもある

 授業料を減免してもらって大学に入れるでのであれば、無理をしてでも、できるだけ偏差値の高い大学に入学しようと思うのは、当然だと思います。しかしながら、この制度の目的が、「学習する意欲ある子供たちの進学を支援するため」となっており、意欲がないと判断された場合は、授業料減免の支援は打ち切られることになります。

 具体的には、警告要件と廃止要件があります。警告要件は、①出席率が8割以下②修得単位数が7割以下③GPA(成績評価)が所属する学部等の下位4分の1、この3つになっています。廃止要件は、①修業年限内で卒業・修了ができないことが確定したとき②出席率が6割以下③修得単位数が6割以下④警告要件に2回連続で該当、この3つです。

 このような支援打ち切りにならないためにも、講義や授業にまじめに出席することはもとより、自分の学力にあったレベルの大学を選ぶことも重要になってくると考えられます。

 

正確な情報の把握が必要

 高校卒業後の進学に関する支援が手厚くなっている中で、情報を知らないために、支援を受けられないということがあってはいけません。支援が受けられる対象の学校かどうかをチェックしておく必要もあります。また、支援が打ち切られて、こんなはずではなかったとなってしまうこともあってはいけません。

 このコラムでは、年収制限が撤廃された「多子世帯の授業料等減免」を中心に、記述していますが、これ以外にも、年収制限がありますが、2024年度から私立学校理工農系学部を対象とした支援もはじまっています。高等学校側でも説明をしているとは思いますが、受験生を持つ保護者は、自らも情報をとりにいき、正確に把握しておく必要があります。

参考:
【こども家庭庁】もっと子育て応援!児童手当
https://www.cfa.go.jp/policies/kokoseido/jidouteate/mottoouen

【文部科学省】高等教育の修学支援新制度
https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/hutankeigen/index.htm

大学ジャーナルオンライン編集部

大学ジャーナルオンライン編集部です。
大学や教育に対する知見・関心の高い編集スタッフにより記事執筆しています。