関西学院大学と大阪大学の研究グループは、スイスバーゼル大学、グルノーブル大学と共同で、海洋性珪藻類が行う高効率な光合成反応を可能にする新規タンパク質を発見し、その高効率な二酸化炭素固定を可能とする分子メカニズムを最新のゲノム編集とクライオ電子顕微鏡技術で解明した。
珪藻が持つ二次葉緑体(二次共生由来の葉緑体)の構造は陸上植物とは大きく異なり、CO2固定化酵素のルビスコが葉緑体中心部に緩やかに集合し、ピレノイドという構造体を作る。これにより珪藻はイネなどの陸上植物よりも40~50倍高効率な光合成を行う。しかしピレノイドは単離が難しく、その構成因子と働きには不明点が多い。
今回の研究では、細胞内で相互作用するタンパク質同士を紫外線照射で共有結合できる光アミノ酸を利用し、これを珪藻のタンパク質合成系に取り込ませて、ルビスコと結合する新たなタンパク質を発見した。さらに、このタンパク質は二次葉緑体のピレノイド辺縁部に局在することが判明し、Pyrenoid Shell(PyShell)と名付けた。
PyShellは試験管内で自己重合し、この重合体をクライオ電子顕微鏡で解析すると周期性を持ったチューブ構造やシート構造を取っていた。対称性を利用してPyShellチューブの立体構造を2.4Å分解能で決定した。さらに、珪藻細胞をクライオ電子顕微鏡でトモグラム撮影し、ピレノイド周辺に試験管内と同様のシート状構造があることを確認した。
PyShellをゲノム編集で破壊すると、シート状構造の消失とピレノイド形成の不全とともに光合成効率が1/80まで著しく低下した。これにより、海洋で最大の二酸化炭素固定量を誇る珪藻の、二次共生による特徴的な葉緑体構造の形成機構と機能が初めて分子レベルで解明された。
論文情報:【Cell】Diatom pyrenoids are encased in a protein shell that enables efficient CO2 fixation