大阪大学の石瀬寛和准教授らは、1846年と1906年の「ひのえうま」世代の男女比の歪みに地域間の違いがあることについて、浄土真宗が影響したことを統計的に明らかとした。

 日本では、60年に一度の「ひのえうま(丙午)」の年に生まれた女性は家に不幸をもたらすという迷信があり、1846年「ひのえうま」では女性100人に対して男性が120人と平常年に比べて男性比率が10ポイント以上高く、1906年「ひのえうま」でも男性が4ポイントほど高い比率を示している(40歳時点)。この背景として、性選択的嬰児殺が行われた可能性が指摘されている。

 一方で、「ひのえうま」世代の男女比の歪みは地域間でも大きな違いがあるといい、これまで、この理由は明らかとなっていなかった。

 こうした中、石瀬准教授らは「浄土真宗は堕胎や嬰児殺を(他宗派より)強く戒めた」という仮説に着目した研究を行い、浄土真宗の寺院が他の宗派の寺院に比して多い県で、1846年と1906年の男女比の歪みが小さいことを統計的に発見した。各地域の浄土真宗寺院の割合と、男女比の平年からの乖離度との関連を調べたところ、全寺院数に占める浄土真宗の寺院数の割合が10%から45%に変化すると、男女比の歪みが3分の1程度減ることに相当する関係性を見出したという。

 その他の要因による可能性を統制しても、「浄土真宗が嬰児殺を戒めた」ことが、男女比の歪みを小さくすることに一定の役割を果たしていたと結論付けることができるという。このことは、歴史学・人口学では以前から知られていた「浄土真宗は堕胎や嬰児殺を(他宗派より)強く戒めた」という仮説を初めて統計的に裏付けたともいえる。

 本研究成果は、宗派間の教義の違いが人口動態にも影響する可能性を示唆しており、その他の社会経済変数への宗教の影響に関しても、宗派や教義の違いを踏まえた検証が重要であることを示した。

論文情報:【Journal of Economic Behavior & Organization】Religion as an Informal Institution: A Case of True Pure Land Buddhism and Missing Women in Early Modern Japan

大学ジャーナルオンライン編集部

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