災害後の史料救出・保存支援が被災者の心の復興に寄与し得ることを、東北大学災害科学国際研究所の上山眞知子特任教授(客員)らによる研究グループが明らかにした。
かつて歴史文化遺産は、災害時に保護すべき対象とのみ捉えられていたが、近年、被災者のレジリエンス(災害などの困難に適応すること)を育む拠り所ともなると考えられるようになった。
日本では、歴史文化資料(史料)の多くを、地域の個人が所有している。そこで本研究では、東日本大震災によって所有する史料が被災した後、第三者によって史料の救出・保存支援を受けた人たちに焦点を当て、これらの支援が史料所有者の心の復興にどのような影響を及ぼしたかを分析した。
その結果、被災後3カ月以内に支援を受けた人たちの多くは、「感謝」「今、自分がここにいる理由がわかった」「震災は歴史の一部であり、次世代に伝えたい」等、支援や史料、震災経験を肯定的に表現する傾向があり、救出された史料を活用してその後の地域社会の復興に取り組んだ人もいた。一方、支援を受けた時期が被災後3カ月より後であった人たちは、「もうどうでもよい」「震災がなければよかった」等、経験を否定的に捉える傾向があったという。なお、被災の程度(自宅が全壊か半壊か)は、史料の救出・保存支援に対する肯定的・否定的イメージに関連がなかった。
以上より、災害後の史料救出・保存支援は被災者のレジリエンスに寄与し得ることが、心理学のアプローチによる統計的データ分析から裏付けられた。本研究は、災害後の心理社会的支援にかかわる人々にも貴重な知見を提供するものといえる。