女性の健康において閉経は重要なライフイベントであり、閉経に伴うホルモン変動により身体的・心理的・代謝的変化が引き起こされる。閉経を科学的に理解するためには、閉経を再現する動物実験モデルが欠かせないが、齧歯類は自然に閉経を経験しないため、従来は外科的な卵巣切除術による卵巣摘出(OVX)モデルが用いられてきた。しかし、OVXモデルは卵巣がなくなるという変化から自然な老化環境とは異なり、代謝応答の欠如などが課題である。
そこで用いられるようになったのが、化学物質VCD(4-ビニルシクロヘキセンジオキシド)の使用によって人間の閉経に近い段階的なホルモン減少を再現するVCDモデルである。今回、埼玉県立大学大学院博士前期課程の眞下葵さんらの研究グループは、VCDモデルのこれまでの実験データをまとめて分析し、体系的にレビューすることで、このモデルの特性を検討した。
VCDモデルに関する文献を網羅的に検索し、動物実験でVCDを使用した研究を対象とした32論文を選定してレビューした。32論文の実験で使われた動物はラットが6割、マウスが4割で、マウスには160mg/kgのVCDが、ラットには80mg/kgまたは160mg/kgのVCDが主に投与されていた。投与期間はマウスでは15日間、ラットでは25日間が最も一般的であった。また、これらのVCDモデルは、女性ホルモンであるエストラジオールや卵胞刺激ホルモンなどの変化を再現することを確認し、女性の健康に応用できる可能性を示した。
本研究を第一歩として、より幅広い医療分野でVCDモデルを活用する道が拓かれることが期待されるとしている。閉経が女性の健康に与える影響を明らかにすることは、健康寿命の延伸や生活の質の向上にも寄与する。閉経期の症状やその予防策を探る医療・創薬の発展が望まれる。