筑波大学、茨城県立こころの医療センター、東洋学園大学の共同研究グループは、政府調査基準の「社会的ひきこもり」、精神科基準の「病的ひきこもり」「非病的ひきこもり」の各基準に基づく対象集団が、重複はあるものの、グループの違いが大きく、有病率も異なることを見いだした。
近年の調査では、社会的ひきこもり状態(ひきこもり)にある日本人の数は170万人超と推定されており、全国的な支援の必要性が高まっているが、これまでひきこもりの定義による違いについてはあまり議論されていない。
主なひきこもりの基準は、政府による全国調査で用いられる「社会的ひきこもり」の基準と、精神医学領域で提唱された「病的ひきこもり」「非病的ひきこもり」の基準の2種類がある。両基準で「自宅での著しい社会的孤立」、「継続的な社会的孤立が6ヶ月以上」という項目は共通だが、病的ひきこもりのみ「社会的孤立による重大な機能障害や苦痛」という項目がある。また、政府調査の社会的ひきこもり基準では、病気や妊娠、介護などの事情があってひきこもる人は除外されている。
本研究では、それぞれの基準で定義される人々のグループ間の重複と相違を明らかにすべく、茨城県笠間市の住民調査から分析を行った。
アンケート調査の結果、有効回答1,137件のうち、政府基準の社会的ひきこもりに分類された人は80人、精神科基準の病的ひきこもりに分類された人は57人、非病的ひきこもりに分類された人は201人だった。社会的ひきこもりは、病的ひきこもり、非病的ひきこもりのいずれにも含まれていた。病的ひきこもりのうち21人および非病的ひきこもりのうち59人は、政府調査の社会的ひきこもりにも判定されていた。
以上の結果から、それぞれの基準を満たす人々の重なりは少なく、ひきこもりについて誤った理解が生じないよう、調査結果の解釈や比較には注意が必要であることが判明した。当事者への適切なサポートのためには、既存の基準の根拠を再考し、定義の使い分けや意義について継続的に検討する必要があるとしている。