北海道大学大学院の山田敏弘教授は、愛知県南知多町の地層から中新世(約1800万年前)の化石としては世界初となる海草の新種2種を発見した。
海草(海に生育する単子葉類)は約8100万年前に出現した。しかし、分解しやすい海草は化石として残りにくく、地球環境の安定に不可欠とされる現在のブルーカーボン※生態系の成立過程は不明だった。
1980年代に愛知県知多郡南知多町師崎周辺で、深海魚、ウニ、ウミユリ、ヒトデ、甲殻類などの化石が多数発見され、図録(東海化石研究会編、師崎層群の化石)が1993年に刊行された。その中の「分類できない化石」項目に多くの化石が掲載されていた。
幼少期から化石マニアの山田教授は、高校生の頃にその化石標本に接して以来、長らく「ユムシ」と考えていた。しかし、最近図録を見返し海草だと気がつく。そのうち2点を所有者から譲り受け、さらに師崎層群を再調査して海草標本1点を得た。葉の形態・葉鞘・葉脈密度などの形態学的特徴の観察から、1点は新種のモロザキムカシザングサ、残り2点は新属・新種のアイチイソハグキとして報告した。
この2種はそれぞれ、現在の熱帯〜亜熱帯域の海草植物相の中心であるリュウキュウスガモ(ザングサ)、タラッソデンドロンのごく近い祖先と考えられた。また、アイチイソハグキの葉にはコケムシやカキの化石が付着。現在の熱帯〜亜熱帯に見られるブルーカーボン生態系の原型が1800万年前までにできていたことを世界で初めて示した。
「師崎層群」は、「これまでに化石情報がなかった生物の化石が得られる地層」として「化石の宝箱」とされる。化石相に関する研究の進展と、浅海生態系の歴史の解明が期待される。
編注:海洋生物が吸収・蓄積する炭素