長崎大学環境科学部の松重一輝助教と北九州市立自然史・歴史博物館の日比野友亮学芸員は、減少するウナギ資源の保全に向け、新聞報道を分析して市民の認識や関心を探った。
ウナギの保全と持続的な消費には政策レベルでの対策強化が不可欠であり、その実現には市民の声が欠かせない。理想的には市民がウナギの保全価値を十分に認識し、資源の現状に正しい知識を持っていることが望まれる。しかし、これまでウナギに関する市民の認識を調査した研究は限られており、全体像は十分に明らかとなっていなかった。
本研究では、全国紙(朝日新聞と毎日新聞)に2020年7月19日から2021年7月28日までに掲載された記事を使って、市民のウナギに対する関心動向を定量的に分析した。この期間には、ウナギへの関心が高まることが予想される「土用丑の日」が2回含まれている。
その結果、ウナギの漁獲や消費、資源の減少に対する市民の関心は、夏の土用丑の日前後に「土用丑の日」や「蒲焼き」などの食品関連話題とともに増加することが分かった。これらのことから、ウナギ保全を市民に動機づけるには食べ物としての側面が重要であり、夏季に正しい情報を市民へ提供して保護を訴える方法が効果的であると結論づけた。
一方で、1970年代から長期にわたってウナギ資源は連続的に減少しているにもかかわらず、この長期的減少をメディアや市民が過小評価している実態も明らかになった。漁獲量の短期的な増減に注目した報道では、資源管理や絶滅リスクには触れず、価格動向への言及が多く見られた。これは過去の豊かな資源状態が忘れられ、現在の低水準が当たり前と認識されつつあることを示唆している。
さらに、食べるためにウナギと接する機会があっても、自然環境で野生のウナギと直接触れ合う機会は減少している。調査では、60代後半から80代後半の年齢層が子ども時代に自然の川でウナギを観察した体験談が、食べ物の記事の2.4倍であることが判明した。「生き物としてのウナギ」と接する機会が減り、相対的に「食べ物としてのウナギ」と接する機会が増えることで、資源状態の正確な認知を妨げ、個体数減少を過小評価させる要因となっている可能性がある。
これらの分析を通じて、ウナギ資源保全の市民の支持を集めるためには、土用丑の日の時期にニホンウナギの長期的な個体数減少やウナギが豊富に生息していた時代の経験談を共有・啓発するなどのアウトリーチ活動を行うことや、親水施設の整備や自然観察会などを通じて、野生のウナギと接する機会を創出するといったアプローチが考えられる。