横浜国立大学の研究グループは、量子テレポーテーションの原理を応用して、情報を漏えいさせることなく光子からダイヤモンド中の炭素同位体に量子状態を転写することに成功した。
現在の技術による情報通信は、盗聴や情報漏えいなどの危険にさらされている。そこで近年、盗聴できない絶対安全な通信を可能とする量子暗号通信の開発が進んでいる。
現状では、量子暗号通信ができる距離は100km程度だという。これを大規模ネットワーク化するには、量子暗号通信を長距離化する量子中継器が必要だ。
本研究グループは、量子中継器に不可欠な、長距離伝送に適した光子から長時間保存に適した量子メモリーへの量子転写を、量子テレポーテーションの原理を応用して行う手法を考案した。この手法は以下の3ステップからなる。
1)ダイヤモンド中の窒素空孔中心(NV中心)の電子と近傍の炭素同位体の核子の間にもつれを生成する。
2)光子と電子の間のもつれを測定する。
3)2の結果が「ある」だった場合は光子から炭素への転写が成功したことが分かる(光子の量子状態が電子と事前にもつれていた炭素へとテレポーテーションの原理で転写される)。
電子を媒介とし、電子と光子のもつれだけを測定するため、量子状態を破壊せずに転写できる上、もつれ測定の結果が漏れたとしても、そこから量子状態を特定することはできず、情報漏えいは起こらない。また、量子メモリーとして用いる炭素は、同位体制御技術によって個数を制御できるといい、必要に応じて量子メモリーを大容量化できる。
研究グループは本手法の実験実証に成功し、量子中継による量子暗号通信のネットワーク化に道を拓いた。今後、量子情報を扱う多数の機器を量子暗号通信で接続した、絶対安全かつ大規模な量子インターネットの実現につながることが期待される。