名古屋大学の研究グループは、マウスの胎生期の細胞の様子を観察し、まるで川の流れが土地の広がりをもたらすように、「細胞集団の横流れ」が「大脳の敷地広げ」に貢献していることを発見した。
大脳皮質には運動、視覚、聴覚、言語など多様な機能をこなす広々としたニューロン層が形成されている。しかし、この広さがどのように確保されているのかは、具体的に調べられたことがなかった。
本グループは,大陸が移動したり、大地が海に向けて広がるような、地球上の様々な事象において認められる「流れ」のようなものが発生期の脳の中にもあるのではないかという仮説を立てた。その上で、胎生早期のプレプレートと呼ばれる層を構成するニューロンたちを観察したところ、背側から腹側に向けて「流れる」ことを発見した(プレプレート流)。
続いて、プレプレート流の意義を明らかにすべく、プレプレートを構成するニューロンだけを死滅させた場合の大脳皮質形成について調べた。その結果、大脳の細胞のガイド役とされる「放射状ファイバー」と呼ばれる構造が本来の末広がりになることができず、「皮質板」と呼ばれるニューロン層が本来のように腹側へ伸びる・広がるということができなくなってしまった。また、胎生早期のプレプレート流を奪ったマウスは生後、大脳皮質の領野形成のパターンが本来の場所よりも背側にずれる・縮むという異常が起こるとわかった。
これらの結果から、背側→腹側のプレプレート流が大脳発生過程、ひいては広々とした大脳皮質の機能発揮に極めて重要であることが判明した。
大脳を広くつくるという発生現象に、地球上で観測される物理現象に似た原理が関わっていることを初めて明らかにした成果といえる。