ヘモグロビンが自らの分子内でガス分子を移動させる様子の直接観察に成功したと、自治医科大学、横浜市立大学、英国Research Complex at Harwellなどの共同研究グループが発表した。
血液中の酸素運搬タンパク質としてよく知られているヘモグロビン。肺で受け取った酸素を全身の細胞に届ける役割を担うが、実は、ヘモグロビン内部において酸素などのガス分子がどこをどのように出入りするのかは知られていなかった。
本研究では、酸素と同等の性質を持つ一酸化炭素(CO)が結合したヘモグロビン結晶を作製し、パルスレーザー光を当て、光解離したCOが移動する様子を低温下のX線結晶解析法で直接観察した。ヘモグロビンはαサブユニット2個とβサブユニット2個からなり、各サブユニット中に1個ずつ存在する鉄が酸素を脱着する仕組みになっているが、観察の結果、αサブユニットとβサブユニットで運動部位が著しく異なり、COの通る道筋も異なることがわかった。
また、ヘモグロビンは環境に応じて、ガスの付きやすいサブユニット配置(R状態)と付きにくいサブユニット配置(T状態)に変化することが知られているが、T状態では、協調的なタンパク質の運動により能動的にガス分子をサブユニット外へ放出する様子も確認された。これは、タンパク質内外へのガス分子の出入りが凍結されると考えられている低温下においても観察されたといい、酸素濃度の低い末梢組織でT状態に変化したヘモグロビンが、酸素をより迅速に外部へ供給するための仕組みであることが示唆された。
今回の発見は、ヘモグロビンが酸素を受け渡しするメカニズムの解明につながる成果として期待される。