岡山大学などの研究グループは、風邪の治療における抗菌薬の使用状況を医療ビッグデータを用いて明らかにした。
一般に風邪と呼ばれる急性気道感染症は、およそ9割がウイルス性であるとされ、大半の風邪に抗菌薬治療は必要とされない。一部の気道感染症は細菌感染で発症することもあるが、その場合でも、狭域抗菌薬であるペニシリン系抗菌薬が第一選択薬として推奨されている。
このように抗菌薬の必要性が低い疾患で抗菌薬が使用されると、副作用の危険があるだけではない。抗菌薬使用の増加に伴い、抗菌薬への耐性を獲得した薬剤耐性菌の発生が増えており、世界的に対策が求められている。
必要性の低い抗菌薬の使用を減らす取り組みが国際社会で進む中、日本でも、薬剤耐性対策のアクションプランが策定されている。しかしながら、これまで、経口抗菌薬が多く処方される外来診療において、急性気道感染症に対する抗菌薬の使用状況を把握するための大規模な研究は不足していた。
本研究では、多数の医療機関の診療報酬明細情報をもとに、2013~2015年の日本国内における865万回の風邪による外来受診を分析した。その結果、風邪による受診の半数以上(52.7%)に抗菌薬が処方されていることがわかった。さらにそのうち、第一選択薬として推奨されているペニシリン系抗菌薬の処方はわずかであり、ペニシリン系抗菌薬以外の広域抗菌薬の処方が高い割合(91.3%)を占めていることも明らかとなった。
また、本研究では、年代や急性気道感染症の疾患サブグループごとの抗菌薬の使用状況も判明。医療ビッグデータにデータサイエンスという新たな手法を適用したことにより、これまで実施困難であった、多数の医療機関を対象とした実際の抗菌薬の使用状況分析を達成した。
この成果は、今後進める薬剤耐性対策のための科学的知見となると考えられる。