国立科学博物館は、西日本自然史系博物館ネットワークおよび全国の自然史関係機関とともに、令和2年7月豪雨により被災した熊本県の人吉城歴史館所蔵「前原勘次郎植物標本」の修復支援を開始した。

 令和2年7月豪雨に伴う球磨川氾濫により、人吉城歴史館(人吉市)は浸水被害を受けた。同館は前原勘次郎氏の採集した植物標本を所蔵しており、この標本も被災。前原勘次郎氏(1890-1975)は、南九州の植物研究史上重要な文献である『南肥植物誌』の著者として知られ、前原氏のコレクションはこの文献の貴重な証拠標本であり、新種記載に用いられた可能性のある標本など、植物学的にも重要な標本が多数含まれている。このコレクションの大半が豪雨で水に浸かり、早急に乾燥・クリーニングを行わなければ腐敗やカビの発生で標本の価値が損なわれるおそれがある。

 人吉市の依頼により、熊本県及び熊本県博物館ネットワークセンターは、この標本の搬出を決断。水損した標本の数が約3万点という膨大な量であることから、迅速な保存処理を行うため、「植物系学芸員メーリングリスト」などを通じ全国の自然史関係機関に協力を依頼した。

 この状況を受け、国立科学博物館は、植物研究部海老原研究主幹を中心に、東日本大震災時の被災標本修復を担った岩手県立博物館や西日本自然史系博物館ネットワーク等と連携して全国での分散対処の調整を行い、各機関が協働して水損した標本の修復に取り掛かることにした。7月26日現在、北海道大学総合博物館をはじめ全国約35の機関が修復支援活動に参加を予定している。

 新型コロナウイルス感染症予防のため、現地での支援に入るのが困難な状況だが、全国の関係機関が連携協力し、分散対処という形でこの貴重な自然史資料のクリーニングおよび修復に取り組む。修復後は、標本は再び全国から地元へと返還され、地域の重要な自然史資料として保存される予定。

参考:【独立行政法人 国立科学博物館】貴重な標本を救え!!全国の自然史系博物館・大学による「令和2年7月豪雨」植物標本レスキュー支援活動について

大学ジャーナルオンライン編集部

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