政府がスタートアップ育成5か年計画を進める中、全国の大学の約半数で起業やアントレプレナーシップに関する活動をする起業部、起業サークルが存在することが、中小企業基盤整備機構(中小機構)の調査で分かった。

 調査は2024年12月から2025年3月にかけ、国公立大学と主要私立大学の産学連携本部、起業部長、部員を対象にオンラインで実施し、89校の回答を集計するとともに、一部関係者からインタビューした。

 大学産学連携本部によると、約半分の44校に起業部や起業サークルなどの活動があり、うち21校で大学公認の起業部が発足していた。しかし起業部の活動への支援は限定的で、サポートを実施していない大学は66%だった。一方で大学の活動としてアントレプレナーシップの講座やセミナーを実施する大学は多く、研究成果の社会実装に向けた支援とは別の動きとなっている大学も多いようだ。

 部長へのアンケートによると、起業部の設立は授業やゼミの延長、大学からの働きかけなど大学主導のケースと、学生の自主的集まり、OBやOGの影響など学生が自ら動いたケースが存在している。規模は学生30人以下の小規模組織が半数以上を占めているが、100人を超す大規模組織もあった。また、「文系が多い」「理系が多い」がそれぞれ3割ずつで、ほぼ同数の大学が1割だった。

 起業部の目的としては、実際の起業が37%、アントレプレナーシップ醸成やネットワーク作りが63%。多くがスタートアップやインパクトスタートアップなどの成長企業を志向しているが、スモールビジネスやNPOなどの起業を意識しているところも一定数あった。起業部出身の起業家が「いる」と回答したのは13校で、過半数で起業家が輩出されていた。

 部員に入部動機を聞いたところ、全体の40%が「元々起業に興味があった」と回答。約62.5%が今後起業を希望しており、全ての学年で最も多いが、学年が上がるにつれ起業意向が減少し、すぐの起業は約10%にとどまる。卒業後の進路は「スタートアップ以外の企業に就職」が約40%で最も多く、約30%が就職を経て起業準備を進めている。

 部員アンケートとインタビュー調査で尊敬する起業家・ロールモデルを聞いたところ、南場智子氏(DeNA)、藤田晋氏(サイバーエージェント)、青柳直樹氏(newmo)、寺田親弘氏(Sansan)、小川嶺氏(タイミー)、久保駿貴氏(ABABA)、田口一成氏(ボーダレス・ジャパン)、中村多伽氏(taliki)、工藤壱颯氏(トランスAIJ)、土屋努氏(セラフ)、片石貴展氏(yutori)、堀江貴文氏(実業家)、前澤友作氏(ZOZO)、森岡毅氏(マーケター、USJ.、丸亀製麺等)、イーロン・マスク氏(スペースX、テスラ等)、ココ・シャネル氏(シャネル) 、岡本太郎氏(芸術家・作家)の名前が挙がった。特定のロールモデルを挙げない学生も一定数いた。

 起業部員の約3割が怪しい起業家や支援者に遭遇した経験があり、無報酬の協力依頼、アイデア搾取、コンサル料、セクハラ、過剰な株式持分、賞金に見せかけた融資、業績悪化時の事業継続の強要などの経験談が寄せられた。

 起業部側、学生側の大学・行政・企業等への支援要望については、約半数は支援を求めていない。一方、残りの約半数には起業プロセスの支援20%、資金支援10%、研究施設の利用10%などのニーズがあり、具体的な支援としては、起業マニュアルやセミナーなどのリテラシー向上と、経営相談や資金調達の仲介などのニーズが強い。

 今回の調査を受けて、中小企業基盤整備機構は、公的支援の一環として、起業に関するリテラシーの向上やビジネスプラン策定などの経営相談、資金調達相談などの支援が考えられるとしている。

 また、インタビューによって「起業したいメンバーと、しようと思っていないメンバーで熱量が大きく異なる。」「起業部の立ち上げ組は、積極的に外部団体とも関わっていきたいが、新入生は就活対策と思っている。」など方向性の多様化がわかったことから、地域を跨いだ起業部間の横のネットワークづくりや意見交換の場づくりが必要と考えられる。

参考:【中小企業基盤整備機構】大学「起業部」活動調査~学生は起業とどのように向き合っているのか~創業支援等事業計画機能強化事業にかかる創業意識調査報告書(PDF)

大学ジャーナルオンライン編集部

大学ジャーナルオンライン編集部です。
大学や教育に対する知見・関心の高い編集スタッフにより記事執筆しています。