北里大学と慶應義塾大学の研究グループは、絶食中に腸内細菌が代謝可能な糖質を摂取することで、腸内細菌叢を36時間という短時間で選択的に再構築する新たな食事介入法を開発した。

 腸内細菌叢の構成は、日々の食事に含まれる栄養素の影響を強く受けている。一方、腸内細菌を短期間で選択的に増殖させる食事介入は、腸内環境の恒常性(頑健性)に強く制限され、実現困難とされてきた。腸内では、宿主由来の栄養素や代謝産物をめぐる細菌同士の複雑な相互作用によって、腸内細菌群集は高い安定性を保っている。

 研究では、この恒常性の壁を一時的に解除する手段として絶食を導入。その状態で腸内細菌が利用可能な糖質(腸内細菌利用糖、MACs)を摂取させて、特定の菌が優位に増殖する環境の人為的構築に成功した。MACsはヒトの消化酵素では分解されず、腸内細菌によってのみ代謝される糖質で、食物繊維やオリゴ糖が代表的なもの。

 マウスによる実験では、36時間の完全絶食(水のみ)中に12時間ごとに3回MACsを摂取させることで、腸内細菌叢の構成が最も大きく変化した。また、摂取するMACsの種類によって増殖する菌が異なることに加え、腸管における IgA抗体(腸粘膜の主要な免疫抗体として感染防御に重要)の産生が顕著に増強した。さらに、抗生物質の使用や強力な薬剤介入に頼らずに、特定腸内菌の選択的な増殖やIgAの増加といった効果が得られるのは大きな利点という。

 今回の研究成果は、絶食とMACsの併用が、腸内細菌叢の構造的リモデリングを目的とした新たな栄養学的アプローチとして、疾患予防や治療での応用可能性を示唆している。ただし、ヒトへの応用には研究と臨床的検証による安全性・有効性の確認が不可欠としている。

論文情報:【BMC Microbiology】Fasting Builds a Favorable Environment for Effective Gut Microbiota Modulation byMicrobiota-accessible Carbohydrates

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