横浜市立大学医学部産婦人科学の宮城悦子教授、吉岡俊輝医師(博士課程3年)、公衆衛生学の後藤温教授らの研究グループは、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンを未接種の18~26歳女性に対して、キャッチアップ接種を薦める約1分間の動画視聴が、接種率に及ぼす効果を検証するランダム化比較試験を実施した。その結果、動画視聴の有無により明確な接種率の違いは認められず、動画視聴の有効性は示されなかった。
日本では、2013〜2022年のHPVワクチン積極的勧奨の一時中止によりHPVワクチン接種率がほぼゼロに低下し、多くの女性が接種機会を逃した。2022年に積極的勧奨が再開されたことを受け、接種機会を逃した世代へのキャッチアップ接種を推進することが急務となっている。
キャッチアップ接種とは、本来の推奨年齢でワクチンを受け損ねた人が、後から追いつく形で接種できる制度を指す。公費(自治体負担)や費用助成が設けられることで、経済的な負担を軽減し、感染症から身を守る機会を平等に確保することが目的とされる。今回のHPVワクチンでは、2013~2022年の勧奨差し控え期間に接種機会を逃した女性を対象に、2022年度から無料で接種できるキャッチアッププログラムが始まった。
研究では、HPVワクチン勧奨差し控え期間に未接種であった女性を対象に、動画を用いた介入がキャッチアップ接種率に与える効果を評価し、さらに接種行動に関連する要因を探索した。
研究では、インターネット調査パネルから、HPVワクチン未接種の18〜26歳女性を登録し、①短編動画(同世代の女性による接種勧奨を行うショート動画)+解説パンフレットを配信する介入群と、②パンフレットのみの対照群へ無作為に割り付け、3カ月後にオンライン追跡調査で、自治体の無料キャッチアップ接種を1回以上受けたかを自己申告で確認。その結果、解析対象の介入群1,017人中107人(10.5%)、対照群993人中121人(12.2%)が接種しており、両群に有意差は認められなかった。
一方で、年齢が高いこと、短大・大学以上の教育歴を有すること、過去2年以内に子宮頸がん検診の受診歴があることは、キャッチアップ接種率と関連していた。
これによりデジタルネイティブである若年女性において、ショート動画の視聴がキャッチアップHPVワクチン接種率に大きな影響を与えなかったことを示し、また、個人の背景によって接種率が異なる可能性が示唆された。
若年女性にキャッチアップ接種を促すには、社会的な背景やニーズを考慮した対策を検討することが重要で、今後、デジタルネイティブである若年層の意思決定に対してどのようなアプローチが効果的であるか、さらなる研究が必要と考えられる。
本研究成果は、国際学術誌「TheJournal of Medical Internet Research」に掲載された(2025年8月15日公開)。