尚美学園大学(埼玉県川越市)が、様々な業界人にインタビューした「プロが語る仕事論」の記事をお届けします。「芸術」「社会科学」「スポーツ」というユニークな分野の組み合わせを持ち、これまで多方面に人材を輩出してきた同大学から、各分野のプ口が仕事について語る記事が、学生に向けて発信されました。仕事の多様性と可能性の広がりを体現された方々の話には、未知の未来を持つ学生にとって将来のヒントとなるメッセージが込められていました。そのメッセージは学生に限らず様々な人に意義があると思います。そこで、全6回にわたり本記事を配信します。今回お話しを伺ったのは、ダンサーで振付家、ダンスカンパニー「コンドルズ」を主宰する近藤良平さんです。

 

【PROFILE】東京都生まれ、ペルー、チリ、アルゼンチン育ち。大学でダンスと出会い、1996年にダンスカンパニー「コンドルズ」を旗揚げ。全作品の構成・振付を手がけ、国内外で高い評価を得ている。NHK『サラリーマンNEO』の「テレビサラリーマン体操」、連続テレビ小説『てっぱん』など、テレビ、映画、PV、CM等の振付多数。2022年、彩の国さいたま芸術劇場の芸術監督に就任。第67回芸術選奨文部科学大臣賞、第4回朝日舞台芸術賞寺山修司賞、令和7年春の紫綬褒章を受賞。

大学の授業で、体で表現する
ダンスのおもしろさを知って夢中に。

 生まれてすぐの時から小学校まで、ペルー、チリ、アルゼンチンで育ちました。子供の頃は外遊びが好きな、じっとしていられない子でしたね。ダンスとは、大学で出会いました。教育学部に入ったのですが、舞踊の授業があって。心臓の音を聴いたり、目隠しして歩いたり、経験しないようなことをやるんです。身体の気づきを研究している高橋和子先生という方の授業でした。スポーツとは違う体の使い方や表現がおもしろかったんですよね。それがきっかけでダンス部に入り、ダンスを始めました。大学3年の時、1年休学してヨーロッパを放浪する旅をし、帰国後は就職せずフリーターに。自由な時間が増えて、仲間と踊ったり、振付をやっていました。25歳くらいの時に、子ども向けテレビ番組のツアーの振付を頼まれたんです。キャラクターやタレントさんに振付をする仕事でしたが、そこから振付の依頼が来るようになって、振付やダンスが仕事になっていきました。

人と人がコミュニケーションを取れてこそ、
ダンスは意味を持つ。人と出会えるのが魅力。

 その頃、仲間とダンスカンパニー「コンドルズ」を立ち上げました。形式にとらわれずに踊るコンテンポラリーダンスをやっていて、主宰する僕のセンスが大きいと思うんですけど、特徴はちょっとコミカルな感じのダンス。そうしたダンスとしては日本では先駆者に近いと思います。僕がダンサーを仕事にできるほど続けられたのは、やっぱりおもしろかったからですね。体を自由にコントロールするって簡単にはできないので、ずっと続けちゃう理由になったんですよね。飽きっぽいのに、やめられなくなりました。僕にとってダンスは、一人で自分の体を鍛えて表現するものではなくて、人と人とがコミュニケーションを取ることで意味を持つものだと考えています。ダンスを通して、人と人とが出会うことができるんです。若い頃は口に出せなかったけど、人恋しいんですよ、僕は。その想いを埋めてくれるのがダンス。

大学は、様々な出会いを提供してくれる最高の環境。
多くの授業から選べる今の大学生がうらやましい。

 大学って、お店の壁にお品書きがいっぱい並んでるようなもんじゃないですか。あんなにいろんな授業から選べるなんてメチャクチャうらやましい。「出会いをどんどんつくれ」と言ってくれてるようで、最高の環境だと思いますね。友だちにも、先生にもたくさん出会えます。高校までは受け身で学ぶことが多いと思います。ダンスもレッスンに行って先生に教えてもらって、真似して踊るイメージがまだまだ強い気がします。そこに陥ると、ずっと生徒にしかなれないんですよ。それだとダンスを続けられなくなってしまう。そうじゃなくて、自分が体を使って何をするか?何ができるか?自ら考えて体を使うことに気づくと、ダンスをずっと続けられる気がします。大切なのは、ダンスが上達することではなくて、どう踊るかなんです。それに自分で気づけると、ダンスはもっとおもしろくなると思います。

無難な行動ばかりでは、可能性が広がらない。
いつも、「冒険する体」でいてほしい。

 一般的に、人って毎日の生活の中ではあまり冒険しないんですよね。無駄な行動をしないとか、目立たないようにするっていう考えが多くを占めてるように思います。受験の面接官をしている時でさえ、そう感じますからね。目立ってなんぼなのに。言い過ぎてしまったら悪目立ちするのではないかという不安が根底にあるから。ましてやコロナ以降、出過ぎないことを覚えた。ある意味、賢くなったんでしょうね。でも自分の可能性を広げるには、やっぱり冒険する気持ちがあったほうがいい。知らない人やモノに出会うのも、性格によっては大変なことに感じるとは思いますが、そこを一歩踏み出す。「冒険」という言葉を使ってもいいと思うんだけど、今日はちょっと無理してみようとか、今日は遠くまで行ってみようとか、そういう感じでもいいから。いつも、「冒険する体」でいるといいと思いますね。
【仕事の相棒/楽器】これはチャランゴという南米の楽器です。これに限らず、気が向くと何かを弾いてますね。踊るのと、楽器を弾くのって変わらないんですよ。ダンスと音楽は密接なもの。演奏してる人が音楽に合わせて足を動かしていたら、それも小さなダンスなんです。僕にはダンサーにしか見えないです。

尚美学園大学

「芸術」「スポーツ」「ビジネス」の分野で、輝く力を育み、未来を切り拓く人材へ

美を尊ぶ(尚ぶ)ことを校名の由来とする尚美学園大学は、建学の精神『智と愛』のもと、豊かな教養と思いやりの心を育み、社会の様々な分野で広く活躍できる人材を育成。学生一人ひとりの個性に向き合いながら、「芸術」「スポーツ」「ビジネス」という三本柱を軸とした教育体制に[…]

大学ジャーナルオンライン編集部

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