2012年に先陣を切った北米を中心としたMOOCsであるが、非英語圏には「米MOOCsがネット教育を席巻すると、自国の言語による高等教育機関が衰退しかねない」との危機感があり、フランスFUNやスペインMiriada X、そして日本でも、2014年にJMOOCが開設され、2015年には韓国でK-MOOCが開設された。しかし、JMOOCは、現在参加大学は約40校、受講者も延べ40万人程度とまだ少ない。文部科学省の教育再生実行会議では「大学によるMOOCの戦略的活用を推進する」方針を打ち出しているが、財政に苦慮する日本政府や日本の大学の資金力では、世界の大学との戦いに打ち勝つことは難しいだろう。
【2】大学淘汰を加速する新たな外圧 その2 “科学技術の発展”
世界的なINTERNET EDUCATIONの進化に加えて、教育の変革を促す科学技術の進化がある。それは、自動通訳機能とバーチャルリアリティの進化である。まず、自動翻訳機能の進化が大学に与える影響を考えてみよう。この進化は、高等教育の言語の壁を打ち破り、どの言語圏のINTERNET EDUCATIONも違和感なく受講が可能となる変化だ。
多くのMOOCsは、英語を中心として拡大しているため非英語圏では自国の言語でのMOOCsを展開し始めている。しかし、急速に進化を続けている自動翻訳機能は、外国語ができないから学びたい国の教育が学べないという壁を打ち破る。2020年に東京オリンピックを迎える日本政府は、成長戦略の一環として、スマホの音声翻訳だけでなく、「精度の高い多言語音声翻訳技術」を2015年より国家プロジェクトとして開発を進めている。「言葉の壁」をなくす日本発の技術革新として、世界にアピールする考えだ。それに呼応し、各企業では自動翻訳機の完成スピードを高め、オリンピックに向けて違和感なく多言語間の言語の障壁を乗り越える製品の実用化を実現するだろう。
それほど遠くない未来に、外国語ができない日本の若者でも、国内にいながら海外の進化したINTERNET EDUCATIONを享受できるようになるはずだ。
次に、バーチャルリアリティの進化が大学に与える影響について考えてみたい。この進化は、INTERNET EDUCATIONであっても、あたかもリアルな大学(キャンパスそのものがバーチャルかもしれない)という場にいて学びを深めているかのような感覚へと発展させるはずだ。バーチャルリアリティの進化は、教室と離れた場所にいる教員と学生、学生同士があたかも近くにいるかのような感覚で学び合うことができる世界を創りだすだろう。
現在のINTERNET EDUCATIONで行う教育・人材育成に対して課題や反論が多数あるのも事実である。特に学修に取り組むモチベーション維持の課題やコミュニケーション育成課題などが問題視されている。しかし、その課題を乗り越えるための新たなe-ラーニングシステムの開発、反転授業の手法の活用やスクーリング、実習や実験などのリアル授業との組合せなど様々な取り組みもなされアウトカムの検証が続いている。バーチャルリアリティの進化は、これらの課題を乗り越える可能性が高い。自宅に居ながら世界各国の学生と海外の教員と大学生活を疑似体験ができるのだから。
【3】新たな外圧が国内の大学淘汰を加速する
これまで、INTERNET EDUCATIONの進化と自動翻訳機の進化、バーチャルリアリティの進化が国内の大学に与えるインパクトについて考えてきた。
教育システムにおけるこれらの大きな機能変化は、日本の旧来型の大学教育の在り方を変革せざるを得ない外圧として最も大きなものになるのかもしれない。中央教育審議会の答申でアクティブ・ラーニングの推進を決めたものの日本の大学の教育が短期間に変革するとは思えない。
今後ますますグローバル化が進展する社会。未来のあなたならどの選択をするだろう。