筆者はこの社会人基礎力を育成するための講義として、中部経済同友会の協力のもと、井村屋、サークルKサンクス、リクルートとともに講義準備を進めていった。この講義は学生がサークルKで販売する井村屋の商品を企画するというものであり、企画のたて方についてはリクルートがアドバイスしてくれるという、いわゆる産学連携講義を行うものであった。
産学連携講義自体はそれまでにも存在していたし、筆者自身も何度か指導経験があったものの、この講義で一番良かったのは、協力企業の方が非常に厳しく学生に接して下さったことである。ある方などは、講義が始まる前から「実際にビジネスの現場で通用するような商品の企画を学生が考えられるわけがない」とおっしゃっており、筆者も大学生を指導する経験上、その意見に大筋賛成していた。そこでこの講義では、「たとえ受講生の1割しか最後まで残らなかったとしても、企業の現場で求められることは全て学生に求めることにしよう」と考え、実際、その考えを協力企業の方々にも共有して頂くことにした。
学生が何度も企画を考えてそれを発表し、企業人がリアルなビジネスの視点から批判する。その繰り返しを何度も行った成果は、実際にサークルK限定の井村屋の商品として結実し、期間限定ながら数十万個単位で発売されることになった(図表3)。
2. アクティブラーニングの意義と課題
筆者が先の社会人基礎力講義を行った頃にはそれほど一般的ではなかった企業と大学の産学連携も、近年では多くの大学においてその取り組みがなされている。その多くはアクティブラーニング(AL)と呼ばれるものであり、大学の世界でALが一つのトレンドになっているということすらできるかもしれない。
文部科学省の定義によるとALとは「教員による一方向的な講義形式の教育とは異なり、学修者の能動的な学修への参加を取り入れた教授・学習法の総称。…中略…。発見学習、問題解決学習、体験学習、調査学習等が含まれるが、教室内でのグループ・ディスカッション、ディベート、グループ・ワーク等も有効なアクティブ・ラーニングの方法である※」と定義されている。すなわち、ALとは一言でいうなら受講者が能動的に講義に参加するものであり、その手法が問われる類のものではない。もちろん産学連携型の講義もALの一つととらえることができる。しかし、近年の産学連携型の講義に対し筆者は、ある種の問題を感じている。
※新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ~(答申)(平成24年8月28日)用語集