図表1を冒頭に提示した理由は、高等教育機関全体像の実態を共有し視界をチューニングしたかったからだ。ややもすれば、偏差値偏重の価値観だけで大学を語り、偏差値では下位の大学や短大・専門学校などを切り捨てるステレオタイプの論調が大勢を占めている。

 しかし、急激な少子化が進む日本における高等教育のこれからを考える際に、「学力」という軸だけでなく、「学費」という軸や「在学生総数のシェア」を共有することで高等教育機関の全体像を捉え、日本の抱える人材育成の課題を直視していくことが大切であると思う。

 「大学改革の現状とその行方 第1回」で示した図表1(18歳人口の推移)によると、18歳人口の高等教育機関全体への進学率は、80%。国公私立大学への進学率は、51.5%である。逆に言えば、18歳人口の20%は、高等教育機関に進まず、高卒者の28.5%は、学費負担の少ない短大や専修学校などの高等教育機関に進学している。定員割れしている大学が45%も存在していることから、大学に入れずに短期大学や専修学校に進学していた時代と異なり、大学の存在価値の低下だけでなく、学費負担がネックとなり大学に進学していないことは明らかだろう。

 日本は大学が多すぎるという議論が始まって久しいが、実は、OECD加盟国(先進34か国)間の比較でも日本の大学の進学率は低いのだ。それはなぜなのか。

 OECD加盟国比較で日本の大学は学費が高い反面、国家の全支出に占める教育支出の割合が低い。つまり家庭の負担が大きいということである。そのため奨学金を受けている学生比率は50%を超え高いが、その奨学金のほとんどが学生ローンであり、返済不要の給付型の奨学金受給者は8%と低く、各国と比較してその特異性が突出しているのだ。

 少子化に向かっている国家にもかかわらず、現状では高等教育を受けるための家庭の負担が非常に大きいということだ。

 大学進学率の伸びも各国と比較し低調であり、限界に来ているということを示している。

 今後日本は、急激な少子高齢化時代に突入する。労働人口が減少することで経済が縮小を余儀なくされる圧力が高まり、国家財政も悪化していくと予測され、高等教育機関への公的資金の配分も期待できない。同時に景気の低迷圧力は、各家庭の経済事情も悪化させると考えられるため、高等教育の負担度は増していく。

 4年間の学費を負担しなければならない大学進学希望者は、よほどのラーニング・アウトカムズ(学修成果)がない限り、その大学を選択しないという方向に向かっていくであろう。

これからの高等教育機関により強く求められるのはROI[リターン/コスト]ならぬ投資対アウトカム[ラーニング・アウトカムズ/学費投資]であろう。

後編へ続きます→→→【2】2100年に向かって大学淘汰を加速する3つの外的圧力

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寺裏 誠司

・株式会社学び 代表取締役社長
・一般社団法人アクティブ・ラーニング協会 理事
・リクルート進学総研 客員研究員
これまで、コンサルティング支援した大学・短大・専門学校は250校以上、支援高校2,500校の実績。講演・セミナー・研修・大学非常勤講師など200件、対象3万人以上の実績を有する。
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