※※STEAMとは、STEM(Science,Technology,Engineering,Mathematics)プラスA(art)。
ゲームチェンジ時代を見据えた、新たなものづくり教育が始まる
1929年の開設以来、日本の経済発展の基盤となる製造業を支える堅実な技術者を輩出し続けてきた武蔵工業大学。2009年の大規模な改革によって東京都市大学に名称変更してからは「都市研究の総合大学」を目指す大学として、文理融合や学際領域への展開も加速している。近年の産業界ではスーパーシティやSociety 5.0などのコンセプトが提唱され、ゲームチェンジ(革新的な技術による従来の産業構造からの変革)の予感が広がっているが、2021年度、東京都市大学はそうした時代の要求にいち早く応えた新ファンクション(機能)カリキュラムを導入した。
プロジェクト名は、「ゲームチェンジ時代の製造業を切り開く『ひらめき・こと・もの・ひと』づくりプログラム」。これまでのものづくり教育の抜本的改革を目指すカリキュラムとして、文部科学省の「知識集約型社会を支える人材育成事業」にも採択された。今年度はパイロット的に理工学部3学科(機械工学科・機械システム工学科・電気電子通信工学科)でスタート、今後は、理工学部全7学科に拡大し、2024年には全学7学部17学科での展開を目指す。
本年度の3学科におけるカリキュラムは、まず、主軸となる専門科目においても機械から電気までの3学科を横断して履修できるという特徴を持つ。「ものづくり」における専門技術を固めながらも分野を融合した知見を拡げることができるということだ。「ひらめきづくり」という授業科目では、スタートアップベンチャーの事例を学んだり、STEAM型のアクティブ・ラーニングを重ね、デザイン思考のアイデア脳をどんどん磨いていく。「ことづくり」という授業科目では、ものごと(物語)や流行を生み出す基礎知識として、社会の構成要素を整理したりSDGsの思考も身につけながら、近未来のシナリオを学んでいく。いずれも単発的な授業ではなく、1年次から4年次まで連続的に行うもので、高校での探究活動が、毎週の授業として高度かつ総合的にプログラムされていると考えるとイメージしやすい。「ひとづくり」授業科目群には、複合的な社会課題を解決するための統合的な学びによる教養教育や技術者倫理の育成、さらにグローバル社会に対応するための英語教育も含まれる。
また、こうした4つのカテゴリーに「AI・ビッグデータ・数理・データサイエンス」の科目群が充実して並走しているのが理工系大学ならではと言える。様々な知識・情報・アイデア・仮説などを理論的にまとめていくための分析力や、予測を組み立てるデータ技術の修得もカリキュラムとしてセットされているのだ。
工学教育ではこれまでも様々な改革が行われてきた。教育の質を国際的に保つためのJABEE(Japan AccreditationBoard for Engineering Education:一般社団法人日本技術者教育認定機構)に始まり、専門のより一層の深化を狙って大学院修士課程まで一貫して学ぶ6年一貫制、そして近年は、分野横断、学際融合などのキーワードの下、学部教育の大くくり化、あるいはレイト・スぺシャライゼーション( 1 , 2年次に幅広い一般教養科目を履修し、自分の適性を見極めたうえで進学する)を促すためのカリキュラム改革も進む。都市大でもこれらの取り組みを行ってきたが、このプログラムは、従来の大学教育の枠組みをさらに超えた取り組みとして注目される。
工業大学からスタートし、学校法人が東急グループの系譜である東京都市大学。各学科は学生のベストケア体制を重視した定員規模で構成され、独自の校風と、改革を実現しやすい土壌を育んできた。今回の新ファンクション( 機能)カリキュラムは、工学教育に留まらず大学教育のゲームチェンジのためのプロトタイプとして注目される。