国家百年の計である高大接続改革、大学入学者選抜改革(以下、大学入試改革)の核心といえる初めての大学入学共通テストが令和3年1月に実施された。これは、高等学校教育・大学教育・大学入試改革、三位一体の改革を目指した取組であり、今後の我が国の教育の進展を見据える上でも、多角的な視点から早急に検証する必要があろう。今回は理科を具体例に挙げながら示すこととする。

 

「大学入学共通テスト」実施の理念と実施までの変化

 三位一体の改革を推進するために、当初、大学入学共通テスト(以下、共通テスト)の「実施の趣旨」では「共通テストでは、各教科・科目の特質に応じ、知識・技能のみならず、思考力・判断力・表現力も重視して評価を行うものとする」としていた。教育改革を断行するためには、これまでの大学入試センター試験(以下、センター試験)との違いを明確にし、改革の決意と、実効性のある取組を示す必要がある。具体的には、多くの教科・科目で複数の資料やデータ等を読み取る思考力や判断力が必要とされる問題の出題等を増やし、一部の解答を記述型にするなど、改革を推進する計画であった。

 ところが、国語と数学における記述式導入、民間試験の活用を目指した英語試験ともに頓挫し、計画は根幹から覆り、今回の実施となった。そのため受験生や高等学校は、目まぐるしい変化に対応せざるを得ない事態となった。

共通テスト「理科」の実施後の評価、検証

 上に示したような「事件」が頻発する中で行われた共通テストは、実施後どのような評価を受けているだろうか。「理科」について考察する。

 共通テストは、「独立行政法人大学入試センター」から示された「大学入学共通テストの概要」や「大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト問題作成方針」に沿った出題であった。具体的には、「知識の理解の質を問う問題や、思考力、判断力、表現力を発揮して解くことが求められる問題を重視し、社会生活や日常生活の中から課題を発見し解決方法を構想する場面、資料やデータ等を基に考察する場面など、学習の過程を意識した問題の場面設定を重視」するとしていた。各科目では思考型といえる良問もあれば、単なる暗記再生型の問題もあり、種々雑多で差が大きい状況であった。

 理科(具体的に「生物」と「化学」)では、まじめに取り組んできた受験生が浮かばれない状況も見受けられた。「生物」は、極めて平易で、深い学びが成立していなくても高得点が得られていた。高得点が得られているので、受験生からの苦情は特に聞こえてこないが、思考型問題と言えるのか疑問視する声があったのも事実である。一方、「化学」は、本質的な良問、奇をてらったような問題の双方が見受けられた。特に、教科書には記載の見られない出題(第5問、問2)、化学を題材にしていながらも結果的には中学校数学の問題になっている出題(第4問、問5)等が見受けられた。問題文をよく読めば、答えられると言えばそれまでだが、学校や受験生、受験関係者、教科書会社に間違ったメッセージが伝わると、その影響は計り知れない。教科書改訂の時期だけに、ただでさえ分厚い教科書が、さらに厚くなってしまうのではないかと危惧するところである。新学習指導要領では、資質・能力の育成を目指し、学問本来の本質を捉え、思考を深めることが求められ、それに応える出題が求められよう。

 また、理科での科目間の出題調整等の検討がなされていたとは考えづらい。「生物」では数量的な扱いやグラフを読み取る出題はあったものの平易であった。「化学」では共通テストの趣旨にしっかりと沿っているが、出題に無理が生じ、一瞬で解けてしまう問題もあれば、みかけだけ思考型の問題もあり、慣れない現役生は得点を落とす結果となった。
 また、高校の受け止めとして、いわゆる学力上位校の地頭の良い受験生にはプラスに作用したが、いわゆる学力中堅校等の生徒、単なる知識再生、ドリル的なトレーニングを重視した受験対策パターン練習を重視するタイプの生徒は苦戦したのではないかとの見方があった。国が目指す「主体的・対話的で深い学び」に向けた授業改善がしっかり実現でき、生徒が力を付けていれば対応は可能であったとの見解であった。
 
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