外国大学の日本校として、日本最大かつ最長の歴史を持つテンプル大学ジャパンキャンパス(東京都世田谷区)。1982年の開校から時代や学生のニーズに合わせた取組を行ってきた。2025年1月に予定している京都の新しい拠点の開設、2023年9月にスタートした観光・ホスピタリティマネジメント学科設立やeスポーツ修了証書プログラムの導入開始など、近年の新しい取り組みについて、加藤智恵上級副学長、田岡泰子教務担当副学長に話を聞いた。
テンプル大学ジャパンキャンパス 京都の校舎(マリアンホール)
日本国内でアメリカの大学の学位が取得できる
テンプル大学(Temple University)は、アメリカ・フィラデルフィアにメインキャンパスを持つペンシルベニア州立の総合大学だ。1884年に開校した歴史のある大学で、現在は約3万人の学生が学んでいる。州内に7つのキャンパスを持ち、ローマと東京に海外の分校を持つ。1982年に設置された東京のジャパンキャンパス(以降、TUJ)は、アメリカの大学としては初の日本分校で注目を集めた。2005年には、外国大学日本校として文部科学省に指定され、法的にも単位や学位が認められるようになった。2024年3月現在、日本で入学、卒業できる唯一のアメリカの総合大学である。
全ての授業は英語で行われ、アメリカの本校と同様の基準に基づいた単位、学位の取得が可能だ。TUJで学位取得を目指す学部課程の学生は、約2200人。うち36%が日本人で、34%がアメリカ人、残りが他国籍の学生で、アジア、ヨーロッパ、中東、アフリカなど、約70か国から集まる。
「ここはアメリカの大学そのものです。日本人にとっては、国内にいながらアメリカの環境で学べる、外国籍の学生にとっては、たとえ日本語が話せなくても、日本で生活し、多様な文化を知り、国際的な感覚を身に付けながら単位が取得できます。しかも、アメリカの本校よりも学費は安く、本校と同じ卒業証明書がもらえるのは、大きな魅力かと思います。アメリカ本校はもちろん、ランクの高いハーバード、テュレーン、ウェイクフォレスト、カーネギーメロン大学などから、1年前後日本で学ぶ短期留学生も多く、彼らから刺激を受けることもあるでしょう」(加藤上級副学長)
2024年2月に取材した際もさまざまな国から来たであろう学生たちがキャンパス内を行き来し、英語が飛び交っていた。
加藤智恵 上級副学長
京都伏見区の聖母女学院藤森キャンパス内に開設を予定
2025年1月からの運用開始を予定しているTUJ京都は、聖母女学院の藤森キャンパス内に開校する。2018年9月に閉校した京都聖母女学院短期大学の土地や建物を一部改装して、使う形になる。貸与先を探していた聖母女学院がオファーし、テンプル側が受けた形だ。
「新キャンパスは、伏見稲荷大社のすぐそばでロケーションもよく、建物も明るく国際的な感じでした。聖母女学院さんの教育方針も学生、生徒中心で、国際教育にも力を入れていらっしゃいます。そういった点も本学と似ており、お互いの情熱が合致し、契約することになりました。学生にとっては、京都で学べることは、魅力的でしょうし、本学にとっても関西でプレゼンスを高められるチャンスだと思っています」(加藤副学長)
開設後しばらくは、海外からの短期留学生に向けた講座を中心に行うが、少しずつ拡大していく。もちろん、京都で入学した学生が、そのまま京都で卒業できるコースは、開設時から設定する。
「最初は120~30人規模で始める予定ですが、京都の学生が東京の講座をオンラインで受講したり、その逆もできるようにします。京都でしか取れないようなコースも是非開講したいと思っています」(加藤上級副学長)
2023年秋から観光・ホスピタリティ学科がスタート
京都ならではのコースといえば、観光系がマッチしそうだなと想像してしまうが、実はTUJでは、2023年秋から観光・ホスピタリティ学科を設立した。アメリカの本校では、すでにある本学科は、「世界大学学術ランキング(Shanghai Ranking)」の学科別順位で、常にトップ10に入るほど、世界的に高い評価されている。
「この学科は、以前から学生からの要望が多く、今回設立に至りました。ホテルだけでなく、各種イベント、エンターテインメント業界など、さまざまなことを学ぶことができます。TUJの場合、学生は英語と日本語を話せるだけでなく、さらに自国の言語など、複数言語を話せる人が多く、かつ複数の文化や習慣の環境でも対応できるバイカルチュアル(bicultural)な学生が多いので、このようなグローバルな感覚を備えた学生を採用したいと考える国内企業も多いでしょう。」(田岡教務担当副学長)
この学科の特徴として、インターンシップが必修として組み込まれている点が挙げられる。特に最終学年の卒業前に行うものは、1学期間すべて(数百時間以上)を企業や団体先で研修生として働き、長期の就業経験を積む。現在はプログラムが開始して間もないため、この学科のインターンシップを行っている学生はまだいないが、将来的には国内外のホテルやリゾート、観光局などでの研修を予定している。
また、アメリカ本校で学びたい人には、東京での学費で最大1年間、留学できる「フライ・トゥ・フィリー・プログラム(Fly to Philly Program)」を使って、実際にアメリカ本校でインターンシップなどを行いながら学ぶことも可能だ。(フィリーは、フィラデルフィアの愛称。一定の成績を修めていることを条件に全学生が対象)。
ジャパンキャンパスには、観光・ホスピタリティ学科に対応した大学院はないが、実力次第でアメリカ本校の大学院に進学することもできる。
田岡泰子 教務担当副学長
単位制のプログラムでeスポーツを学び、修了証書も得られる
2023年5月には、近年、世界的に注目を集めるeスポーツのプログラムを学部課程に導入した。業界で活躍するために必要なスキルと知識の修得を目指し、指定科目を履修した学生にeスポーツ修了証書を授与する。「eスポーツ入門」「SNS」「eスポーツの法的倫理的課題(Legal and Ethical Challenges)」「収益化(revenue production)」の4クラスすべてを履修することが修了条件だ。いずれも全学生が受講可能な選択科目として設定され、卒業単位として組み入れることもできる。
「日本では、まだこれからという印象を受けるのですが、アメリカでは1つの大きなイベントとして、野球などの既存スポーツと同様の非常に大きなマーケットになっています。コースでは、ゲームのテクニックを学ぶのではなく、eスポーツをビジネスとするにあたり必要とされる側面に焦点を当てています。SNSなどを使ったブランディング、ゲーム会社やストリーミング会社との契約、シューティングゲームなどの倫理的な問題などをテーマに扱っていきます」(田岡教務担当副学長)
ちなみにTUJには、eスポーツの公式代表チームがあり、学生からプレイスキルで選ばれたメンバーが、普段から研鑽を積み、さまざまな大会に出場している。
授業は大変だが、志のある人に来て欲しい
テンプル大学ジャパンキャンパスでは入学試験は行わず、高等学校および大学機関での学業成績、英語能力試験のスコア、英語での自己紹介文などの総合評価に基づく書類審査によって合否が判定される。出願資格は、高校での成績(5段階評価で評定平均3.0以上、4段階評価で評定平均2.0以上)、英語能力(TOEFL iBTの場合は79点以上)。英語力が足りない場合は、英語を学びながら学部課程を受講し、正規入学を目指す「条件付き入学(Bridge Program)」も用意されている。ただ、正規でも条件付き入学でも、学びを続けるのはなかなか大変そうだ。
「授業はほぼ全てが20人前後の少人数制。質問ができるか、グループワークでは発言ができるかなどが、チェックされます。また、1時間授業を受けたらその5~6倍は、外で勉強しないと授業についていけないし、成績がもらえません。ライティングの能力はもちろん、コミュニケーション、プレゼンテーション、ディスカッションなどのスキルは必須です。さらに多様性を受け入れる柔軟性も求められます。ただ、英語で国際的な教育を受けたい、世界で活躍できるような、あるいはリーダーシップを取れるような人材になりたいという方には、是非いらしていただきたいですね。大学としても、イノベーティブなことをこれからも続け、社会や学生のニーズに応えていきたいと考えています」(加藤上級副学長)
学びの質を上げるため教員の増員も進めており、現在フルタイムの教員が67名、パートタイムを含めると約200名以上になる。他大学と比べると学業の面で大変な部分も多いかもしれないが、刺激的で、実りのある学生生活を送れることは間違いなさそうだ。
加藤 智恵上級副学長 兼務 エンロールメントマネージメント担当副学長
1987年聖心女子大学卒業後、大日本印刷関連会社にて小・中学生向け英語教室のフランチャイズ事業展開を担当。1991年に渡米し1993年、英語教授法修士号を取得、帰国後(財)日本英語検定協会(英検)にて、児童英検(現在の「英検Jr」)の開発メンバーとしてテスト制作を行う。
1997年からテンプル大学ジャパンキャンパス(TUJ)の広報部に配属。1999年、同大学の広報活動、学生募集、 マーケティング・コミュニケーションの責任者として広報部長に就任。2003年から学長室渉外担当ディレクターとなり、外国大学日本校の地位改善とステータス向上のため、日本政府および米国大使館等関係機関との交渉役を務め、その結果、2005年2月、文部科学省から外国大学日本校として正式に「指定」を受けるに至る。これにより外国人学生への学生ビザのスポンサーが可能になり、TUJにおける欧米国籍の学生数はその後急増し、学部課程は1999年の500名から2024年現在、2200名にまで成長した。2008年よりエンロールメント担当副学長、さらに2014年よりTUJ上級副学長。
田岡 泰子教務担当副学長
古代ギリシャ語・ラテン語、およびその文学の研究者として知られ、学術誌『古典言語教授法』の編集にも携わる。米国グリネル大学(アイオワ州)にて古典研究の学士号、米国オハイオ州立大学にて古典研究の修士号・博士号を取得。2007年より、南イリノイ大学カーボンデール校の言語文化国際貿易学部にて古典研究部門の責任者および准教授。2017年より米国ウェイン州立大学(WSC)の芸術人文学部長。学生数4千人超の大規模校WSCにおいては、芸術人文学部の5学科(芸術、デザイン、ジャーナリズム、歴史、政治学、地理学、言語学、文学、演劇、音楽など20専攻)を統括。2021年10月よりテンプル大学ジャパンキャンパスの教務担当副学長に就任。TUJ学部課程の12の専攻学科、および3つの大学院課程を統括することに加え、研究活動、教職員の採用、学籍管理、成績評価・単位認定、教務部、大学間協力、新しい教育プログラム開発など、本学の学術活動のあらゆる面を統括している。