国際協力のあり方や世界の課題を根本からとらえ、専門的な教育を行っている東洋英和女学院大学大学院国際協力研究科。社会人でも通いやすい環境を整えており、院生たちは年齢や性別、居住地にとらわれず、多角的に議論を交わしている。
教育の特色や院生たちの学びの姿などを、国際協力研究科研究科長の河野毅先生にうかがった。

 

国際協力の重要性が増している

 東洋英和女学院大学大学院は、男女共学の社会人向け大学院。2つの研究科を有しており、そのうちのひとつが国際協力研究科だ。設置から30年ほど経った今、河野先生は同研究科の重要性を一層実感しているという。

「日本の国際的な地位が上がりつつあった1990年代、世界に貢献するためのキーワードとして本学科は『国際協力』を掲げました。それから30年が経った今、地球温暖化、貧困、戦争など、世界中で協力しなければ解決できない課題はますます増えています。むしろこうした問題は、世界が協力をしないことによって起きているかもしれません。」

 国際協力について深めるために、同学科では「サステイナブル国際協力コース」と「国際政治経済・地域研究コース」を設置。サステイナブル国際協力コースでは、地球環境、公衆衛生、ODAなど多岐にわたるテーマを扱う。国際政治経済・地域研究コースでは、世界各地の地域事情を学ぶほか、企業の役割にも注目。政治や経済と深く関係している企業が、国際社会でどうあるべきかを考えるそうだ。

 また、国際法の基礎、国際機構の役割など、両コースの基盤となる内容が詰まった基礎共通科目もある。中でも河野先生が担当する「国際社会ワークショップ」は同研究科の特徴的な授業だ。

「SDGsについて、国連総会で採択された30数ページの原文を徹底的に読み込みます。幅広い分野についてきちんと知り、各ゴールのつながりを包括的に考えてもらうことが目的です。世界中の課題や、対処の方向性などへの理解も促します。
SDGsは各国が国益を根底に議論を戦わせた結果、17のゴールという形になりました。これは国同士がどう協力してどう協力しなかったのかがわかる、いい具体例です。また、私は2011年からSDGsが採択される2015年まで国連に勤めていたため、議論の経緯など原文にはない部分も伝えています。」

仕事と学びを両立しやすい環境

 社会人を対象とした大学院として、仕事と勉強を両立できるような工夫も随所に見られる。ひとつは授業時間。基本的には月曜日と金曜日の18時30分以降と、土曜日の9時から授業を行っている。キャンパスは交通の便がいい六本木にあるため、都内に務める社会人は仕事が終わってからでも足を運びやすい。

 また、全ての講義を対面とオンラインによるハイブリッド形式で実施。東京都外はもちろん、海外から授業に参加している人もいる。普段は対面で受講している院生でも、仕事の繁忙期などはオンラインで参加可能だ。

「世界中から多様な経歴を持つ方々が集まってくるので、教員にとっても授業は刺激的です。滞在している地域での事例や、海外での経験談など幅広い観点から意見が出てくるので、議論が活性化しています。」

 早稲田大学大学院社会科学研究科修士課程との単位互換制度もある。早稲田大学大学院で受講した授業は10単位まで認められるため、興味に応じて学びを深めやすい。

 さらに金銭面の負担も軽減されている。同学科は厚生労働省が指定している「専門実践教育訓練指定講座」に認定されており、卒業時までに、入学金と授業料の約70%が雇用保険から支給されるそうだ。

 そして最大の特徴が、修士論文だけでなく研究成果の提出でも修士号を得られること。研究成果の提出を希望する院生には、教員が毎学期読むべき本を選出した「リーディングリスト」を課している。院生はリスト内の本を読み、内容を批判的に分析したレポートを提出。これを1年生の前期と後期、2年生の前期と後期の計4回行い、最終的にその内容に基づいた口頭試験を受ける。

「レポートをまとめるには、各授業で学んだことを組み合わせる必要があります。たとえば感染症対応に興味があれば、感染症に対処しているのは誰か、地域における病院の役割はどうかなど、複雑に絡み合っているさまざまな事柄を考えなければなりません。すると感染症以外にも、複合的に考えるべき分野がたくさんあることに院生たちは気づくでしょう。このように院生の興味関心を軸に、幅広い分野を組み合わせて考えを深めます。」

 ほかにも、短期大学卒業生でも資格審査を通過すれば入試を受けられる制度、正規入学をする前から講義を受けられる科目等履修制度など、門戸を広げる取り組みはまだまだある。実際に科目等履修制度を利用して海外滞在中から授業に参加し、帰国後の正規入学をめざしている学生もいるそうだ。参加している授業で優秀な成績を収めれば、入試は面接のみになる。そのためこの制度は、正規入学への滑走路としても機能しているといえよう。

一生学び続ける力が身につく

 大学院を修了した学生たちは、勤めている会社で国際関係の部署に異動したり、国際機関に行ったりと、自分の可能性を広げている。国際協力研究科で身に着けた力は国内外問わずどこでも支えになると、河野先生は自信をのぞかせた。

「情報源を選定し、意見をうまく組み立てて議論を進める力は、どこに行っても必要なスキルだと思います。また、学べば学ぶほど知らないことが増え、社会への関心が高まっていくでしょう。一生の学びの土台となる思考力や関心が、大学院では身につきます。
また、本研究科の院生になにより重要なのは、知的好奇心です。学びたい、もっと自分を磨きたい、物事を世界規模で比較検討したいと思っている方は誰でも歓迎しています。」
 
 最後に河野先生は「協力しない世の中になると、世界はいい方向に進んでいきません。協力は簡単に見えて、実は難しいこと。ですから読者のみなさんにはこの記事を機に、国際協力ってなんだろう、と考えてみてほしいです。」と、国際協力の重要性を述べた。

 国際協力を軸に、世界の課題に目を向ける東洋英和女学院大学大学院国際協力研究科。仕事と学業を両立しやすい環境や金銭面での支援、短大卒でも入学を志せる制度なども充実している。卒業後はきっと、一生通用する思考力や多様な観点が身につくはずだ。

東洋英和女学院大学 国際社会学部教授・国際協力研究科研究科長

河野 毅

同志社大学法学部卒業。オハイオ州立大学大学院政治学部博士課程修了(Ph.D取得)。外務省、国連勤務を経て、2016年より国際社会学部教授に着任。
専門分野:比較政治、国連の役割、地球規模課題・国境を越える課題、社会運動

 

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