「高等教育の修学支援新制度」では、これまでの支援に加え、2025年度から、多子世帯(扶養する子供が3人以上いる世帯)の学生等について、年収制限なしで大学等の授業料・入学金が減免となることが決まっています。2025年1月以降に文部科学省から詳細情報が発表される予定となっています。これにより、高校新卒の「就職者の割合」は減少し、「大学進学者の割合」がさらに増えることが予測されています。国から授業料等を減免してもらえるなら、就職ではなく大学進学しようと考える生徒が多くなるのは自然な流れだと思います。

 高校(全日制・定時制)新卒の「大学進学者の割合」は、2003年3月卒業者36.3%から、2023年3月卒業者56.8%と大きく上昇しています。しかし、「就職者の割合」を調べてみると、2003年3月卒業者16.6%から、2023年3月卒業者14.2%と「大学進学者の割合」と比較すると変化が少なくなっています。

 このコラムでは「高等教育の修学支援新制度」による高校新卒の大学進学者と就職者の割合への影響を整理するとともに、都道府県別データを見ながら、この先、どのような影響がありそうかを考察してみました。

 

高校新卒の「大学進学者の割合」は増加し続け、「就職者の割合」は2020年度の「高等教育の修学支援新制度」導入から減少へ

 2000年前後からしばらくは、大学の定員が大きく増えたこともあり、予備校進学者(浪人生)が減少し、短大進学者の減少もあり、高校新卒「大学進学者の割合」は増え続けてきました。これだけ「大学進学者の割合」が増えれば、「就職者の割合」は減少しそうな感覚になりますが、実際には2020年度までは大きく変わっていませんでした。流れが変わったきっかけは、2020年度からはじまった「高等教育の修学支援新制度」だと考えられます。年収制限などの条件はあるものの、国から支援が受けられることもあり、就職予定者が大学等進学への進路変更になったことが大きな要因だと予測されます。

高校新卒「就職者の割合」は、2023年度で14.2%。都道府県別にみると、佐賀県(28.0%)と、東京都(4.6%)で大きな差となっている

 高校新卒の「大学進学者の割合」は、右肩上がりで増えてきたことや、一番高い東京都(71.3%:2023年度)と、一番低い鹿児島県(36.2%:2023年度)で大きな差があることから、様々なメディアで紹介され話題になることが多くあります。しかし、「就職者の割合」については、「高等教育の修学支援新制度」がはじまる前までは、全国で見ると大きな変化がなかったこともあり、話題になることは少なかったように思います。高校新卒者(全日制・定時制)「就職者の割合」【下表】を都道府県別にみてみると、一番高い佐賀県(28.0%:2023年度)と、一番低い東京都(4.6%:2023年度)で大きな差があることが分かります。特に、佐賀県、山口県、秋田県については、5年連続で「就職者の割合」が高くなっています。

日本として「知の総和」を維持・向上していくためには、一人ひとりの能力を高めていく必要がある。高校新卒の就職者も、もちろんその対象

 中央教育審議会大学分科会における「急速な少子化が進行する中での将来社会を見据えた高等教育の在り方について(中間まとめ)2024年8月8日発表」の中で、今後の高等教育の目指すべき姿として日本の「知の総和」を維持・向上していくことが必須だとしています。「知の総和」とは、「数」×「能力」となりますので、人口減少で「数」が減少していくならば、一人ひとりの「能力」を上げていく必要があるということになります。この「知の総和」の維持・向上は、全員が対象になりますので、高校新卒の就職者で言えば、大学等への進学による学びや、通信教育課程などでの働きながらの学びが必要になってくると考えられます。

高校新卒の就職予定者が、大学進学者へ変わると、地元に残る人が減る?

 「高等教育の修学支援新制度」による支援が充実し、高校新卒の就職予定者が、大学進学者に変更になった場合を考えると、特に「就職者の割合」が高い東北・九州などの地区で、大学進学率は上昇することになります。「就職者の割合」が一番高い佐賀県(28.0%:2023年度)で、3%が大学進学へ変化したと仮定すれば、2023年度の高校(全日制・定時制)卒業者数から考えると、約200人があらたに大学進学することになり、「大学進学者の割合」は二番目に高い山口県(27.3%:2023年度)で同じ計算をすると、約300人が大学進学することになります。大学進学者が増えても、地元で受け皿がなければ、県外流出してしまいます。地元残留率を比較【下表】してみると、大学進学者よりも就職者の方が地元残留率が高いため、何も手を打たなければ、地方では大学進学が増えれば増えるほど、地元に残る人は減少する可能性もあると考えられます。

高卒就職求人倍率は、過去最高。企業からのニーズは高いが、奨学金の支援がある場合、やはり進学を選ぶのではないか

 人手不足もあり、高卒就職の求人倍率は、過去最高を記録しているようです。就職したいと思えば、ほぼ就職できる環境だと言えます。進学するための環境も「高等教育の修学支援新制度」の充実などにより整ってきています。生涯年収を考えて大学卒の方がよいと考える人もいるでしょうし、就職して早いうちから手に職を付けた方が有利と考える人もいるでしょうが、奨学金や授業料等減免があるのならば、やはり進学を考える人が多いように思います。 

 2025年1月以降に、年収制限がなくなった多子世帯(扶養する子供が3人以上いる世帯)の学生等についての大学等の授業料・入学金の減免について、文部科学省から詳細情報が発表される予定になっています。授業料と入学金の減免で上限があり、私立大学の場合は、施設設備費や実習費などが別にかかるため、完全に無料ではありません。この部分が、就職を予定している人に、どれくらい受け入れられるのかが注目されます。

大学ジャーナルオンライン編集部

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