2025年度入試における大学の女子枠・女性枠(以降 女子枠)導入は、国公立で30大学、私立で36大学と大きく増加している。2026年度入試では、京都大学理学部と工学部、大阪大学基礎工学部、青山学院大学理工学部などで新規導入が決まっており、今後も新規導入の検討は進んでいます。

 このような大学入試の状況の中、2025年2月、公的なパイロット養成機関である「航空大学校」が2027年度入試から女子枠の導入予定を発表しました。また、2025年3月、公立の高専である「神戸市立工業高等専門学校」は2026年度入学者選抜から、「大阪公立大学高等専門学校」は2027年度入学者選抜から女子枠の導入予定を発表しています。これらの学校は、大学とは募集対象が異なっています。航空大学校の出願資格は、修業年限4年以上の大学に2年以上在学している者、短大・高専等卒などが対象で、高校卒業後すぐには出願できません。高専の出願資格は、中学校卒業者です。

 女子枠は、大学の学部だけでなく、さまざまな領域で広がりを見せています。このコラムでは現状を整理してレポートしていきます。

 

2026年度入試で女子枠の新規導入、京都大学、大阪大学、青山学院大学・・・

 大学入試における女子枠は、導入する大学が増えたことにより、認知が広がっています。2026年度入試で女子枠を新規導入を発表しているのは、国公立大学では、京都大学理学部と工学部、大阪大学基礎工学部、岩手大学理工学部、山形大学工学部、埼玉大学工学部、愛媛大学工学部、広島大学理学部・工学部・情報科学部(2025年5月12日時点)の7大学。岐阜大学工学部では、導入年度が正式に決定していませんが、検討が進んでいます。また、私立大学では、青山学院大学理工学部、亜細亜大学健康スポーツ科学部(2026年4月新設予定 認可申請中)、摂南大学工学部が2026年度入試での新規導入を発表しています。

 理工系学部を設置する国公立大学で、まだ新規導入していない大学は多くあります。女子枠ではないが、東京大学の推薦入試のように女子の出願者数を規定している場合もありますし、3年次編入のみ女子枠を導入している信州大学のような大学もあります。導入していない大学でも、女子学生の獲得には積極的であることは確かであり、2027年度以降もしばらくは新規導入が続くのではないかと予想されます。

 女子枠への志願者は、大学や学科系統により大きな差があります。女子枠は、理工系の中でも、女子比率が低い「機械」「電気電子」「情報」系が中心になっていますが、もともと女子比率が高い「化学」「生命」「建築」などでも設置されているため、大きく見ただけでは成果が出ているかどうかは分かりづらいところがあります。また、私立大学においては、亜細亜大学、嘉悦大学、名古屋商科大学のように理工系学部以外での「女子枠」設置の例もあり、このあたりも分けて考える必要があります。

 2024年度よりデジタル人材育成を強化する動きとして、DXハイスクールが始まり、女子に限定はしていないものの、採択された高校では理系学部進学率の目標が設定されています。また、内閣府が2005年からはじめた理工チャレンジ(リコチャレ)の取り組みや、2021年から山田進太郎&DI財団による奨学金助成事業や企業・大学と連携した中高生女子向けのSTEM(理系)領域の体験プログラムなども行われおり、徐々に女子枠の志願者も増えていくものと考えられます。

国のパイロット養成機関の女子枠新設による、大学等の他養成課程への影響は?

 政府は、2030年に訪日外国人旅行者数6000万人の目標を立てており、国内航空会社のパイロット不足も深刻化しています。国土交通省の資料によると、2024年1月1日時点における主要航空会社の操縦士は7274名で、うち女性は142名、女性比率は1.95%。世界の主要航空会社の平均4.7%より低くなっており、国土交通省は2035年までに10%に引き上げる考えを示しています。

 パイロットになるためには、大きく3つのルートがあります。国が設置した唯一のパイロット養成機関である「航空大学校」への進学、パイロット養成課程を設置する私立大学・大学校などへの進学、国内航空会社の自社養成枠での採用の3つです。このうち、「航空大学校」において、2027年度入試より「女性枠」の新設構想が国土交通省から発表されました。詳細としては、従来の筆記試験の代わりに書類選考や面接など「人物中心の評価」をメインとした新たな試験区分を設定し、新区分の定員30名のうち20名を「女性枠」とする予定とのこと。これが実現すると、入学定員108名のうち20名は少なくとも女子入学者になります。現在の入学者の女子比率は約5%となっているため、確実に女子が増えます。また、2026年度入試から、パイロット養成課程を設置する私立大学などにはない「身長158cm以上」としていた入学要件を撤廃することが決まっています。

 航空大学校は2年課程であり、修業年限4年以上の大学に2年以上在学している者、短大・高専等卒などが出願資格条件、パイロット養成課程を設置する私立大学・大学校などは高等学校卒などが出願資格条件、国内航空会社の自社養成枠は大卒などが採用資格条件。条件はそれぞれ異なるものの、志願者倍率10倍程度ある「航空大学校」で女性枠が新設されれば、男子の競争率が高くなるため、志願者が私立大学に流れるなど、影響は出てくるのではないかと予測されます。

 私立大学でパイロット養成コースを設置しているのは、東海大学(入学定員50名)、桜美林大学(同40名)、法政大学(同30名)、崇城大学(同20名)、千葉科学大学(同20名)、第一工科大学(同10名)、工学院大学(定員は先進工学部機械理工学科65名の内数)の7大学。2024年度の7大学をあわせた入学者のうち女子は26名。女子比率は約14%(国土交通省の資料より)で、航空大学校よりも高い比率になっています。2026年度入試については、法政大学が新入生の受け入れ中止を発表しているため、6大学の募集となります。

高等専門学校の女子枠は、「女性エンジニア養成枠」と呼ばれている

 2026年度入試より、神戸市立工業高等専門学校は学科再編とあわせて「女性エンジニア養成枠」の新設を発表しています。同高専の入学定員240名のうち推薦選抜は96名程度、学力選抜144名程度で行われていましたが、2026年度入試より、特別推薦選抜として「女性エンジニア養成枠」20名、「高度情報人材養成枠」4名が新設され、推薦選抜96名、学力選抜は120名に変更になります。「女性エンジニア養成枠」は、多様な視点を持ち、新たな物事に積極的に挑戦するマインドを有し、次代の産業界を牽引出来うる女性エンジニアの養成を、「高度情報人材養成枠」は次代の高度情報化社会で活躍でき、スタートアップに興味のあるエンジニアの養成を目的としています。特別推薦選抜、学力選抜においては兵庫県外在住の方の受験を認めています。

 2027年度入試より、大阪公立大学高等専門学校で「女性エンジニア養成枠」が新設されることになりました。同高専は入学定員160名で、学校長推薦選抜(小論文と面接による特別選抜)80名と、学力検査選抜80名で構成されていましたが、2027年度入試より、学校長推薦選抜の募集人員を20名増員し100名とし、新たに「女性エンジニア養成枠」を設置し、学力検査選抜が60名に変更になります。2027年度から、寝屋川キャンパスから中百舌鳥キャンパスへ移転するタイミングでの入試変更になります。中学校入学後の早期から工学系の学習に興味を持つ優秀な女子生徒の獲得する狙いがあります。

 高専における女子枠は、2019年度入試より奈良工業高等専門学校が「女性エンジニアリーダー養成枠」として設置されたのが初めてのようです。大学とは異なり「女子枠」という呼び方はしていません。高専本科の学生数は全国で47,972名でうち女子学生は11,784名。女子率は24.6%(2024年5月1日時点 学校基本調査)となっており、大学の理工系やパイロット養成課程と比較すると高いように思えますが、実態としては学科により大きく異なっているようです。

 各高専で女子学生の獲得には積極的であるため、今後も「女性エンジニア養成枠」は増えていくものと考えられます。

増え続ける女子枠の評価は、何年もかかる

 今後の高等教育の未来の指針でもある、2025年2月の発表された「知の総和」答申では、高等教育のアクセス確保について以下のような記載があります。

 世界に伍する研究大学から地域の人材育成をミッションとする大学まで、多様な視点や優れた発想を取り入れた新たなイノベーションの創出に向けて、特に女子学生の占める割合の少ない理工系や、女性の視点を取り入れることで更なる成長が期待され地域活性化にもつながる農学系等の分野の学問を専攻する女性の増加など、女性活躍のための取組を進めることが必要です。

 

 このための取組例として、以下のような記載があります。

 女子中高生の理工系への進学を促進するために、保護者・教員も含めた地域における取組を支援するとともに、各学校段階において、社会で活躍する女性による講演等の機会を設けること等により、自分らしい生き方を実現していくキャリア発達を促すためのキャリア教育を促進する。

 

 国としては女性活躍のための取組を進め、そのための取組を支援するということなので、理工系や農学系の学部のおける女子比率も高まっていくと予測されますが、その手法として「女子枠」がうまくいくかどうかは、まだ分かりません。大学入試における女子枠は、1994年度入試からはじまったものの、大きく広まったのは、この数年である。実際に卒業生が何年か出てから評価をしていくべきなのでしょう。

大学ジャーナルオンライン編集部

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