尚美学園大学(埼玉県川越市)が、様々な業界人にインタビューした「プロが語る仕事論」の記事をお届けします。「芸術」「社会科学」「スポーツ」というユニークな分野の組み合わせを持ち、これまで多方面に人材を輩出してきた同大学から、各分野のプ口が仕事について語る記事が、学生に向けて発信されました。仕事の多様性と可能性の広がりを体現された方々の話には、未知の未来を持つ学生にとって将来のヒントとなるメッセージが込められていました。そのメッセージは学生に限らず様々な人に意義があると思います。そこで、全6回にわたり本記事を配信します。今回お話しを伺ったのは、俳優を中心にイラスト、写真など幅広い表現活動をされている根矢涼香さんです。
【PROFILE】小学生の頃に観たミュージカルに感動し、中学生の時に地元茨城の市民劇団に入団して、5年間ミュージカルに出演。高校卒業後、上京して大学で映像を学びながら、俳優活動をスタート。オーディションに積極的に応募し、インディーズ映画を中心に40作以上に出演。2024年公開のNetflix『極悪女王』でのデビル雅美役が話題に。映画・ドラマ・CMなどに出演するほか、イラストレーター、写真家としても活躍している。第18回TAMA NEW WAVEベスト女優賞受賞。
俳優は、自分の人生が新しい表現につながる。
一生ワクワクし続けられる仕事。
俳優として、商業作品からインディーズ映画と呼ばれる自主制作作品まで、幅広く活動をしています。私は演じた者の責任として、舞台挨拶や宣伝活動などを通して映画に込められたメッセージをお客様に届けていくところまでが、自分の仕事だと思って活動しています。俳優は、その役が持っている感情や知識、美学などを自分の中に落とし込んで演じるので、それに影響されて自分が形成されていきます。本当にユニークな職業だと思います。出産などで仕事にブランクができたとしても、その経験も新しい表現につながります。だから自分の人生が何一つ無駄にはなりません。実際、何かを経験した後で現場に立つと、「あれ?前は見えなかったものが見えてる」と気づくことがあります。そういう気づきが一生続く。ずっとワクワクし続けられる仕事だと思います。自分がワクワクしたことで人を元気づけられたら、もう最高ですよね。
自分に合う役が知りたくて、次々に出演。
20代半ばで、出演作が40本以上に。
小学5年生の時にミュージカルを観た後、ロビーに役者が出てきて挨拶をしているのを見て「人が物語の人をつくってるんだ」と知って、「自分もやってみたい」と思ったのをよく覚えています。中学生の時に地元の市民劇団に入りミュージカルに出演するようになりました。大学入学後は、自分に合う役を知りたくて手当たり次第に映画や舞台のオーディションに応募し、いろんな監督と仕事をしました。芝居の筋トレみたいな感じで仕事を受けていたおかげで、次の作品にも呼んでもらえるようになり、「わらしべ長者」のような形で出演作が増え、24、5歳の時には40本以上に出演していました。レッスンやワークショップでも演技力は鍛えられるのですが、現場に出てみないとわからないことがあります。また自分を生かせる演技は、人に教えてもらうものではなく、自分で獲得するものだと思います。チャレンジ精神で、現場にどんどん飛び込んでみるのが一番ですね。
大学で自分が興味のあることを学べば、
それを俳優としての「強み」「個性」にできる。
俳優になりたいのであれば、尚美学園大学のようなところで演技を専門的に学ぶのがダイレクトだと思います。ただ演技を学ぶだけでなく、全然違うことも学んだほうが自分の「強み」にできます。その知識やスキルが「個性」となって、現場ですごい光を放つこともあります。私自身は、大学で映像制作や映画の歴史を学びました。その作品はどのような背景で、どのようにつくられたのか、どんなこだわりや苦労があったのかを学ぶことで、映画では目に見えていないところのほうが重要だと気づくことができました。友人の中には経営や経済を学んでいたことで、俳優にとどまらずプロデューサーもやっている人もいます。芸術だから芸術のことだけ学ぶというのは、もったいないです。大学を選ぶなら、いろんな分野を幅広く学べる環境が良いと思いますね。
自ら作品をつくり、人に観てもらうことで、
出会いが生まれ、「自分」もできてくる。
今は、どこにチャンスがあるかわかりません。自分はこういう演技をしたいとか、こういう作品をつくってみたいという気持ちがあるなら、つたなくてもいいから映画をつくって、映画祭に応募してみると良いと思います。作品の良し悪しにかかわらず、誰かに観てもらうだけでも「出会える縁」が生まれます。「これならできそう」と思えるやり方から始めるのがおすすめです。作品を1つでもつくってみれば、学べることがいっぱいあります。皆さんそれぞれの性格に合うやり方を突き詰めていけば、絶対に「自分」ができていきます。そんな「自分づくり」を楽しんでほしいなって思います。俳優を目指すなら、自分の「好き」に、まっすぐにいてください。「いいね」の数や他人の顔色より、まずは自分がどんなことをしていたら息がしやすいか、生き生きしていると感じられるか、どんなものに救われているかを忘れずにいることが大切だと思います。
【仕事の相棒/フィルムカメラ】撮影現場にも持っていきます。フィルムカメラは自分でピントを絞って撮るので、小さな映画づくりをしているような感覚です。撮り切ったフィルムを現像すると、現場の風景が並んでいたりして、私の人生を描いた映画を観ているような気持ちになります。