東北大学の佐藤大気氏(博士後期課程学生)と河田雅圭教授は、精神疾患関連遺伝子の中で、人類の進化過程で自然選択によって有利に進化してきた「こころの個性」に関わる遺伝子を検出した。
精神疾患は現代人の約2割に発症し遺伝率も高い。精神医学や神経科学、さらには進化学において重要な課題となっている。一方、近年の研究の多くは精神疾患と精神的個性の遺伝的背景にかなりの重なりを見出している。また、個性にかかわる遺伝的変異は積極的に維持されうると提唱する研究もあるが明確な証拠はない。
今回の研究では、精神疾患の関連遺伝子に着目し、哺乳類15種のゲノム配列を用いて、人類の進化過程で加速的に進化した遺伝子を検出。また、約2500人分の現代人の遺伝的多型データを用いて、集団中で積極的に維持されている遺伝的変異の特定を試みた。
その結果、3つの遺伝子が人類の進化過程で自然選択を受けて加速的に進化したことが判明。中でも「SLC18A1」という遺伝子の136番目のアミノ酸は人によって異なり、3つの遺伝子型があることが分かった。また、人類の進化過程でSLC18A1遺伝子に生じた遺伝的変化は、ヒトの精神機能に影響した可能性があり、先行研究でもうつや不安症傾向、神経質傾向、また、双極性障害や統合失調症などとの関連が指摘されている。
さらに、不安傾向や神経質傾向など示す遺伝子型は、人類の進化初期に有利な影響を与えたとされ、ヒトが世界に広がる際に抗うつ・抗不安傾向を示す遺伝子型が自然選択を受け有利に進化したことが推測されるという。
今回の研究の進化学的な知見は、個性や精神・神経疾患の生物学的意義や治療の方向性について示唆を与えると期待される。