カリフォルニア州立大アーバイン校のグレゴリー・ワイス教授らはゆで卵を生卵に戻すことに成功しました。世界中で医療や食糧生産、環境対策に企業がつぎ込んでいる研究費は年間1600億ドル(約19兆8000億円、2015年8月10日現在)ともいわれていますが、それを劇的に削減することができるかもしれません。すでに特許申請を済ませ、企業との間で事業化を進めています。

 生卵がゆで卵になるとはどういうことなのでしょうか。生物の体や卵の中のタンパク質は小さなアミノ酸という分子が紐のようにつながってできています。生卵の状態ではこのひもが綺麗に折りたたまれた構造をしていますが、熱や薬品の影響でほぐれて絡まってしまいます。毛糸の玉がほぐれて、絡み合ってしまった状態をイメージすれば良いでしょう。これを変性と言いますが、ゆで卵はタンパク質が変性することでできるのです。

 がん治療薬や食品のメーカーなどはタンパク質を扱った容器の洗浄コストに頭を悩ませています。絡まったタンパク質は容器にしつこくこびりつくからです。このようなコストも製品価格に上乗せされるため、患者や消費者の負担を増やす原因にもなっています。逆にゆで卵状態を生に戻すことができれば簡単に洗浄できるようになります。そのためタンパク質を生卵状態にする研究はこれまでにも行われてきましたが、以前の方法では1回の洗浄に4日もかかっていました。ワイス教授の方法は、圧力をかけながら熱水の中で20分程かき回すことでタンパク質をほぐすことができるというもので、大幅なコスト削減につながります。

 タンパク質の洗浄コストは価格という形で私たちの負担にもなっています。今回の方法が実際に容器の洗浄に有効であれば、患者や消費者も恩恵を受けることができるでしょう。卵を生に戻すと言われてもなかなかがん治療とはつながりませんが、消費者の目に届かない生産過程でコスト削減の努力が行われていたのですね。

出典:【UCI News】UCI, fellow chemists find a way to unboil eggs
【Wiley ChemBioChem】Shear-Stress-Mediated Refolding of Proteins from Aggregates and Inclusion Bodies

大学ジャーナルオンライン編集部

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