東北大学の研究グループは、「1つの金属原子に9つもの水素が結合した新たな物質群」の合成に成功した。これは量子科学技術研究開発機構、高エネルギー加速器研究機構、株式会社豊田中央研究所との共同研究による成果だ。
金属の中には、単独では水素と結合しにくい元素群(=ハイドライド・ギャップ)が存在する。一方、これらの元素は「錯体水素化物」を形成することで多くの水素と結合できる。しかし、クロムとその仲間のモリブデン、タングステンは、ハイドライド・ギャップに属するにもかかわらず、錯体水素化物となっても水素と結合しないとされてきた。これに対して研究グループは、2015年、クロムと水素が結合した錯体水素化物の合成が可能であり、例外であったクロムが一般的な金属よりも多い7つの水素と結合することを発見した。
今回研究グループは、残りの例外であるモリブデンとタングステン、またこれまで錯体水素化物の合成報告がなかったニオブとタンタルの4元素を含む錯体水素化物の合成に取り組んだ。具体的には、理論計算と高圧合成技術を融合し、合成条件を最適化することでこれらの元素を含む4種の新たな物質群を合成した。そして中性子などの量子ビームを利用し、1つの金属あたり9つもの水素が結合していることを確認した。この成果により、ほとんどの金属元素と水素を結合させる技術が確立されたことになるという。
水素を高密度に含む物質群は、水素貯蔵材料や高速イオン伝導材料、超伝導材料としての応用が期待されるなど、近年多くの注目を集めている。今回の研究成果は水素を高密度に含む物質群の探索とその基礎・応用研究を拡大させる重要な成果とされる。